短いおはなし
□Strawberry Kiss
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脳内がとろけるほどの甘さ。
Strawberry Kiss
待ち合わせは僕の家。あの子が買ってきたのはストロベリーショートケーキ。しかもホールの。
生憎だけど、僕は甘いものが好きじゃないんだ。
たっぷりの生クリームにふかふかのスポンジ、艶のある、真っ赤な苺。
でも、キミの気持ちを無下にするなんて、できないだろ?
「――だからって…!」
ベットに押し倒された隼人が抗議の声をあげる。
既に脱がして乱した着衣。そんな目で睨んでも、その格好じゃあちっとも怖くない。
「僕はソレを有効的に使おうとしてるだけだよ」
「でも……、」
まだ理性のある彼は、なかなか大人しくならない。
「……いいから、黙って」
なおも反論しようとする彼の口を強引に、唇で塞いだ。
「んっ……ん、んっ!…」
舌をいれてしまえば、もうこっちのもの。
逃げまどうように引っ込めた舌。もちろん逃がさない。
無理矢理絡め取って、吸い上げて。思うがままに蹂躙すれば、力の入っていた身体はくたりと僕にしなだれかかってくる。
普段は強気な緑色の瞳が快楽に潤んで。「もっと…」。愛しくて堪らない。
ねだるように僕の首に腕を回した隼人に口付けを与えながら、おもむろにケーキに手を伸ばした。
ケーキの表面に指を滑らせ、柔らかな生クリームをそっとすくう。
「ひ、ばり?何して…」
咎める声を無視して隼人の滑らかな身体に白いクリームを落とした。
「ひ、雲雀?!こら、お前やめろっ!」
慌てて上半身を起こそうとする隼人を許さず、華奢な肩を押さえる。
離せと藻掻く手足。精一杯の抵抗。でも、
「――隼人。今日は僕の誕生日なんだけど」
そう言えば途端に静かになる彼が、可笑しくて少し笑った。
「も、ヤメロよ…」
弱々しい声。自分の有様に、羞恥と諦観を。どうやら抵抗しても無駄だと悟ったらしい。
「なんで?すごく綺麗だよ」
生クリームまみれで、キミがデザートみたい。
そう言うと白いメレンゲのような肌はパッと赤く染まった。
満足した僕は再びケーキに指を伸ばす。
散々掬ったせいで無惨な形のショートケーキ。指を挿し入れるとぬぷっと音がして、生クリームとスポンジのなんとも言い難い感触。
思わず顔をしかめるけれど。
食べ物に指を入れる、まるでイケナイことをしているようで。その背徳感が堪らない。
白い裸体の上。淡く色付く突起にソレを塗りたくると、隼人が啼いた。
「ひゃっ!…っ、ぁ…」
生クリームごときゅっと摘むと反り返る肢体。曝け出される無防備な首筋を舌でなぞる。
「ん…、ふぅぅっ…」
僕によってデコレートされた身体は、どこを舐めても、甘い。
ケーキごと突起に吸い付くと、隼人の嬌声はひときわ高くなった。
「…も、こんなこと……」
ふるふると力なく首を振る。
「食べ物でこんな……弄ぶ、みたいな…」
自分の言葉に傷付いて濡れた花貌。泣いてしまった彼の姿はとっても可哀想で、同時に酷く可虐心を煽られる。
「ホント…グチャグチャに汚れて、いやらしいね」
耳元で囁けば恥辱に震える身体も、堪らない。
「キミはただ、僕の手で乱れていればいいよ」
それが僕の愛だから。
軽く口付けて足を割り開けば。か弱き草食動物は小さく悲鳴をあげた。
「お前、ホント、最低」
さっきまで気絶するようにベットに埋まっていた隼人が、もぞもぞと布団の中から顔を出して僕を睨む。
「プレゼントだって、用意してたのに」
それなのにこの有様はなんだ。そう言って恨めしげな顔をする。
「関係ないでしょ」
それとこれとは話が別。敢えて言うならホールのケーキなんて買ってきた、キミが悪い。
「じゃあプレゼントはやんねーぞ!」
「何言ってるのさ」
プレゼントはもちろん、喜んで受け取るよ。それに、
「君だって気持ち良かったんだからいいだろう?」
「………やっぱお前、さいてい…」
お前なんかきらいだ。
悔しそうに呟いて、そのまま俯く隼人。
嫌い?…本当に?
隠してるつもりだろうけど、僕には全部お見通し。
だって誤魔化せない。覗き込めば、髪の間から見える、真っ赤に染まった双方の耳。
――恥ずかしがり屋で、でもとびきり素直な可愛いキミ。
彼のその嘘は僕をとても幸せな気持ちにさせたので、
困った僕はちいさく笑った。
HAPPY BIRTHDAY
HIBARI KYOYA
(ケーキよりも甘いキミに、今すぐ口付けてしまいたい)