短いおはなし
□かわいいキミが悪いんだ!
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目の前で無防備に寝てるのは、俺の想い人。
夜遅くなったからと半ば強引に泊まらせて。風呂から上がったとたん、コレだ。
スヤスヤ吐息なんか立てて気持ちよさそうに寝ちゃってさ。
同じ部屋に獄寺がいるってだけで、俺はそれどころじゃないっていうのに。
なあ、お前ちゃんと自覚してる?
男はみんな、狼なんだぞ。
「……がおー」
口を開けて爪を立ててみても、獄寺はちっとも起きやしない。
代わりに小さく身動いて「んんっ」だなんて。ずいぶん可愛い声出してくれるじゃないか。
そんなに無防備で、食べて下さいと言わんばかりの状況で。
「……襲っちゃうぞー」
獄寺の顔を伺いながら、いつもは言えないホンネを呟いてみる。
いっそのこと、本当に組み敷いてしまえたら、俺たちの関係も変わるかもしれないけど。
情けないことに、俺にはそんな勇気、ない。
だって、
いくらおあつらえ向きの据え膳状態だからって、
目の前の唇が誘うように赤く濡れていたって、
獄寺の前にでると緊張して指が震えてちゃ、手なんか出せるわけがない。
お前のことが好きすぎて手が出せないなんて。
「……どんだけ惚れてんだよ…」
そう言って深い溜め息を1つ。結局俺は、また自分で自分を慰めることになるわけだ。
煩悩に乱れた頭を冷やすため、すごすごと部屋を出ていった俺は知らない。
ドアの閉まるのと同時にパチッと開かれた、エメラルドグリーンの瞳。
綺麗な弧を描く、バラ色の唇。
「………いくじなし」
ちいさく笑った、小悪魔なキミのこと。
かわいいキミが悪いんだ!
(好きなら態度で示してみろよ)