短いおはなし

□追悼
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なあ、獄寺。

今ならお前が言いたかったこと、わかるよ。




お前は、怖かったんだ。


愛を知らない自分が、愛を育むこと。
親の温もりさえ知らない自分が、他人の俺を受け入れること。


そういうの全部ひっくるめて
俺を試したんだろう?



今ならわかるお前の気持ちも、あの時の俺は若かった。
お前の真剣な思いに気付きもしないで、知らない内に誤魔化して逃げていた。

犯してしまった過ちを、何度も悔やんだ。あの日に戻れたらって、何度も何度も。



だって俺が守っていたのは愛すべき人じゃなく、ちっぽけな自分の世界だった。



俺は若くて愚かだったから、お前の苦しみから目を背けたんだ。






「……ハハッ、おかしなこと言うのな――またいつものごっこ遊びか?」







誰か、俺を殺してくれ。





その後、俺たちの関係が変わった全ての原因が、
この日のせいであったのかなんて、俺にはわからない。


そう、わからないけれど。
それでも1つ、確かなものがあるとすれば、

それは、





結果、獄寺は、ツナを選んだということ。











金色のドアノブを引いて、ゆっくりとドアを開けた。

響く開閉音に、鏡の前に座っていた獄寺が振り返る。




夢にまで見た、その姿。


純白のドレス、華奢な身体、流れる銀糸、光る若葉。
すべてがキラキラと輝いて、美しかった。

パァッと光輝いて、誇らしげに溢れる笑顔。


「山本!!」


これが俺のものだったら、どんなに良かったのに。









獄寺は、ツナにも同じ質問を、したのだろうか。
ツナはあの慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべて獄寺を受け入れたんだろうか。

「どんなことがあっても、獄寺くんは、俺の大切な獄寺くんだから」

そう言って、いつも力が入っていた彼女の華奢な肩を、ツナは抱き締めたんだろうか――?









「…綺麗だな」


――ちゃんと俺は、笑えてる?


俺がそう言うと、獄寺は照れたように頬を染めて目を伏せた。

「うるせー。心にもないこと言いやがって」

そう言って視線をそらしながら項を触るのは、照れている時の癖。
かわいい強がりを言う、薄紅色の唇。

あの時から獄寺は、何も変わっちゃいない。




変わったのは、俺だ。

「確かことわざにもあったよな?まごにも衣装、だっけ?」

「〜〜っ!テメェ〜、一体何しに来やがったんだよっ!?帰れっ」

「ハハッ、ヒデーなぁ。俺たち中学ん時からの仲じゃねぇか」

回顧を誘う俺の言葉に、獄寺はフッと遠くを見るような目をした。

「中学か…」

甘くとろける翠色の瞳がゆっくりと細められる。

「……なぁ山本、」

過去の面影を色濃く残した白く端正な顔に浮かぶ、緩やかな微笑み。

「今だから言えるけどさ…」

困ったような、でも柔らかな、日だまりのような顔で獄寺は笑った。




「実は俺、中学の時お前のことが好きだったんだぜ?」







――――ああ……



そんな、まるで過去を慈しむような顔、で。






俺は、昔見た映画みたいに、花嫁姿のお前の手を引いて、誰もいないところへ、お前を連れていってしまいたかった。
そうなることを、何度も夢想した。

(だって、あの日、獄寺は、助けを求めるように震えていたんだ)







―――でも、



すべてはもう、遅い。






「……そうか」






お前をまだ過去に出来ない俺は、

「俺も、」だなんて、言えない。







天高く延びる空に、嘆きの鐘が生る。





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