短いおはなし
□これも愛の形
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『これも愛の形』
リボーンとの厳しい修業のあと。
部屋に帰ろうとする山本の手を引いて、切羽詰まった様子の獄寺が無理矢理連れ込んだ先は、入ったこともない何処かの空き部屋だった。
「――ン…、ふァ……んん……」
強引にこんな所まで連れてきて、一体どういうつもりなのか。
山本がそう問いただすよりも早く。
華奢な身体のどこから出るのか、容赦ない力で壁に叩きつけられ、同時に獄寺の熱い舌が口内に捻り込まれた。
「……ぁ、ふぅんっ……んっ、んっ…」
山本のことなどお構い無しに、獄寺は興奮のおもむくまま無我夢中で口内を掻き乱す。
獄寺の施す熱い口付けを受けながらも、それに比例するように頭の芯が冷えていくのを感じた山本は、「ああ、またか」と思う。
山本が目を開けて獄寺の顔を盗み見ると、その顔はただただ陶酔に浸っていた。
最近は、いつもそうだ。
突如飛ばされた未来の世界。
混沌に満ちた世界の中、敵から聞かされた『未来の主が受けた仕打ち』を知ってしまってからは、それは毎夜のように。
飢えた獣よろしく抱くことを強要される。
獄寺が現実から逃げ出したいのかそれとも忘れたいのか山本には定かではないが、獄寺の要望はいつも同じ。
善すぎて気絶するくらい、何も考えられなくなる程の激しさで抱いて――
「――っぁ……」
獄寺の額に手をやって無理矢理顔を引き剥がすと、そこには快楽に惚けた獄寺の顔があった。
整った花貌は、今では見る影もない。
赤く蒸気した頬を隠すこともせず、口元を厭らしく唾液で汚し、瞳は焦点を失ったまま水気を帯び緩んでいた。
浅ましくも目を奪われるくらい妖艶で、人肌に飢えた顔。
――こんなもの、自慰と同じだ。
山本は思う。
ただ俺の身体を使って1人飢えを満たしているだけなのだ。
「山本……っ」
ちっとも動こうとしない山本に焦れた獄寺は、まるで熱に浮かされた熱病者のように渇望を山本に訴える。
太股に押し付けられた獄寺の昂ぶりに、山本は歪んだ笑みを浮かべた。
――可愛そうな獄寺。
こんなことをしても、
お前の大好きな“十代目”は帰ってこないのに。
「なぁ…もっとォ……」
現実に目を背けて俺に縋るお前は、可哀相でなんとも可愛らしい。
いとおしくて笑えるくらい、愚かな恋人。
「………覚悟しろよ?」
顕になった白い首筋に山本が噛み付くと、獄寺の身体はぶるっと震えた。
どんなに馬鹿馬鹿しくて無意味なことでも、
お前が俺を望むなら、
俺はいくらでも与えてやる。
慰めの安い言葉も、身を焦がす程の快感も。
甘いだけの夢を見せて、ドロドロに溶かしてやってもいい。
だって俺は、獄寺をアイシテルから。
「……あぁっ…十代目……っ」
―――もっとも、
万が一ツナへの思いが敬愛じゃなかったら、俺はお前を壊しちゃうかもよ?