長いおはなし
□ドリーミングガールとマフィアな僕《2》
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入学式を終え、各クラスごとに分かれた俺たち新入生は、新たな生活への興奮と緊張、それと同時に長かった1日がようやく終わるという安心感に包まれていた。
すでに何人かの奴らはかたまって、どこの部活に入ろうか談笑している。
俺も持ち前の明るさからすぐに何人か仲良くなれそうな奴もできて、入学初日にしては上出来だった。
「山本は何部に入るか、もう決めてんの?」
席決めで後ろの席になった金井(カナイ)もその1人だ。
「おう!俺は野球部に入るぜ」
中学時代にお世話になった先輩が並盛高校の野球部にいて、すでに入部することは伝えてある。さっそく今日から来て欲しいと言われて、俺は昨日から楽しみにしていた。
「マジか〜!俺まだ決めてないんだよなー」
どうしよ〜と机に突っ伏して頭を抱える金井を見ながら、俺はふと朝の出来事を思い出していた。
ドリーミングガールと
マフィアな僕
今朝、先輩たちに囲まれた慌ただしい雰囲気のなか。
俺の前にいきなり現れた、謎の美少女。
スカートをはためかせて仁王立ちした彼女は信じられないくらい綺麗で。
極上の笑みに惚けていた俺の手を、彼女はぎゅっと握った。
「そうと決まったらサッサと十代目の所に行くぞ!」
「えっ?ええっ?」
それは困る!これから俺たち新入生は入学式があるし、それに入学そうそう勝手な行動をしたら先生に目を付けられそうだ。
彼女の小さい手はあたたかくって心地好い。本当は手離したくないのだけど。
「悪いんスけど、俺これから入学式が…」
断ろうとしたその時。突然、何かに反応したように彼女はぞくっと身体を震わせた。
バッと顔を上げて警戒するようにキョロキョロとあたりを見回す。
「やべっ!雲雀が来る!」
怯えたように顔を強ばらせた彼女は俺を見つめた。
深い緑の瞳から、目が離せない。まるで引力みたいに引き寄せられる。
「わりぃけど俺、今すぐ逃げねーと。十代目に会うのは後でな?」
ゴメンな!と手を合わせた彼女はそう言って颯爽と走りだした。
なんだか展開の早さについていけなくて、しばらくのあいだ口を開けたままぽかんとしてしまった。夢だったんじゃないかと思ったけれど、握られた手は今だに熱をおびている。
なんだかシンデレラみたいだなあ、と訳もなく思っていると、今度は目の前に人が落ちてきた。
…そう、本当に落ちてきた。しかも俺の目の間違いじゃなければ3階の窓から降りてきたような…。
女生徒の悲鳴を背に、華麗に着地を決めた男の人はすっと立ち上がった。
鋭い眼光。なぜか指定のブレザーではなく学ランを着たその人は、周りを一瞥すると端正な顔をゆがめて溜め息を吐いた。
「まったくあの子は…逃げ足だけは早いんだから…」
でもまあそんなところも可愛いんだけどさ。
そう言うが早いか男は俺の方をちらりとも見ないまま歩き去ってしまった。
気付くとさっきまでうるさい位だった部活勧誘も、今じゃシーンと静まりかえっている。
なんていうか、すごい。
しばらくの間ア然としていたけれど、今まで見たことない人たちに俺は持ち前の好奇心を刺激される。
やっぱ高校にはおもしろい奴がたくさんいるのな。