長いおはなし
□ドリーミングガールとマフィアな僕《8》
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沢田さんの、「下の階に“宝物”はない気がする」という予感に従って、俺と獄寺さんは特別棟の階段を駆けのぼっていく。
小僧の指令を聞いた後の沢田さんは人が変わったみたいにテキパキと指示を出していった。いつもの沢田さんも優しくて頼りになる雰囲気をもってるけど、さっきの沢田さんはそんなんじゃない。もっと力強い、人を動かすことができるオーラがあった。
「沢田さんって、なんだかすごいのな」
走りながら俺が呟くと、獄寺さんは当然だと胸をはった。
「当ったり前だ!沢田さんは素晴らしいお方だからな!」
そう言って獄寺さんはうれしそうに笑った。
沢田さんのことになると、獄寺さんはとっても可愛くなる。まるで自分のことのように喜ぶ獄寺さんに、俺はなんでか息がつまったように苦しくなった。
最近の俺は、変だ。
なんでこんなに胸が痛いんだろう。自分の身体なのに、理由がちっともわからない。
走りながら階段を上っているからかな、とも思ったけど。でも野球部じゃもっとキツいトレーニングをしているし、毎日朝練の前にランニングだってしてる。だがらこれくらいの運動、大したことないはずなのに。
一体どうしたんだろう。もしかして俺の身体、どこかおかしくなっちゃったのかもしれない。そう考えるとなんだか心配になる。
だって沢田さんの素晴らしさを熱く語っている獄寺さんは、キラキラ輝いてすっごく綺麗なのに、見ているのがツライだなんて。
「獄寺さんと沢田さんは仲良しなのなー」
俺がそう言うと獄寺さんは困ったように笑った。
「仲が良いっつーか…まぁ、沢田さんは俺にとって特別な人だからな」
――特別な人…
その後すぐに話題は宝探しのことに変わったけど、どうしてかその言葉だけが頭から離れなかった。
俺と獄寺さんは4階から手当たり次第教室をまわっていった。まだ慣れない校舎だけど、午前中に学校の案内を受けたばかりだから俺にも自分のいる位置くらいは理解できた。
広い並盛高校の廊下を端から端まで走って教室を回っていくのは、普段走り込みをしている俺でも結構堪える。俺でも疲れてるんだから女の子の獄寺さんは相当だろう。隣を見ると獄寺さんは肩で息をしていた。
「大丈夫っスか?少し休みます?」
「う、うるせーっ!俺なら余裕だっつーの!」
口ではそう言っててもやっぱり疲れてたみたいだ。
図星をあてられて頬を赤くした獄寺さんはキッと俺をにらんだ。
「そういうお前こそ息乱してんじゃねぇかっ。こんな時だってのにバックなんか持って走りやがって」
「ハハッ、慌てて置いてき忘れたのな」
そう言って俺は肩にかけたバックをしょいなおした。生徒指導室に入ってすぐにいろいろあったしな。手さげ鞄は置いてきたけど肩にかけたバックは外すのをすっかり忘れてたみたいだ。
「ったく…――人形は4階にはないみたいだな。下に降りるぞ」
「おうっ!」
一息ついて再び走りだした獄寺さんの後をついていった。