長いおはなし

□ドリーミングガールとマフィアな僕《9》
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大きなデスクの向こう。窓から外でも見ているのか皮張りの黒い椅子はこちらに背をむけていた。
開け放たれた窓から流れる風が、カーテンをはためかせる。
ドアが開く音に反応したように、くるっと椅子が回り、男の人の顔があらわになった。

「やぁ。待ってたよ」

整った顔の男の人が俺たちを迎えた。さっき獄寺さんがドアを開けたとき相当大きな音がしたはずなのに、男の人の顔にはまったく動揺が見えない。悠然とした態度のこの人に、俺は見覚えがあった。

「雲雀…」

隣で獄寺さんが小さくつぶやく。ヒバリさん。たしか入学式の日、校舎の窓から飛び降りてきた人だ。いろんな意味で衝撃的だったからよく覚えてる。
でもなんでこの人が応接室にいるんだろう。普通に学校生活を過ごしてたら応接室なんてほとんど縁のない場所だと思う。俺だって中学のときは掃除で1、2回入ったくらいだし。それなのにヒバリさんはまるで自分の部屋にいるみたいにゆったりと落ち着いている。

ヒバリさんは切れ長の目を細めて獄寺さんを見た。彼の漆黒の瞳が、射るように獄寺さんを捕える。鋭い視線はまっすぐに獄寺さんだけをさしていて、その目は真剣そのものだ。
ピリピリするような緊張感がただよう中、ヒバリさんは口を開いた。


「会いたかったよ隼人…!」


ガタンと音をたてて感極まったようにヒバリさんが立ち上がった。ハァハァと興奮したように息が荒い。冷たい印象をあたえる顔はこころなしか赤らんでいる。
信じられないくらい甘くとろけたヒバリさんの声に、獄寺さんはふるえた。

「テ、テメー!気色悪いこと言うんじゃねーっっ!」

弾かれたように叫ぶと必死に腕をさすりだした。見ると白くて細い腕に鳥肌がたっている。

「隼人は相変わらず素直じゃないね。早くこの胸に飛び込んでおいでよ、さあ!」

「何が『さあ!』だ!この変態!」

手を広げるヒバリさんからガードするように獄寺さんは身構えた。やっぱり無意識にかジリジリと後退りする。
たしかこの光景は見たことがある。さっき応接室に入ろうとしたときも同じことを獄寺さんはしていた。近づくのさえも嫌そうに…

――獄寺さんが応接室に入りたくなかった理由が、ようやくわかった気がする。あれはヒバリさんと会いたくなかったんだ。


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