peach candle


□peach candle
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元旦

急ぎ足で繁華街を歩いていた。普段なら人混みで真っ直ぐ歩けない時間帯だが、正月である今日は閑散としていて、別の場所のようだ。

(ヤバイなーまた遅刻だ)

ド派手な店の裏口へ周りドアを開けた。

「あ、モモエさん♪おはようございます!」

積まれた使用済みバスタオルを片付けていた従業員だ。

『おはよ、今日ヒマ?』

「昼過ぎから急にって感じで。女の子少なくてまわんないから店長ピリピリっすよー」

従業員はため息をつきながら答えた。

『そっか。がんばって』

「お疲れ様です!」

笑顔で軽く手を上げ、汚い階段を昇り2Fにある控え室へ向かった。

豪華な造りの店と違い、裏口からの通路は薄暗く空気も湿っぽい。控え室に入った。

真ん中にある広いテーブルに飲みかけのグラスや灰皿が数個。雑誌が散らばった誰も居ない部屋にテレビの音だけが響いている。

出勤した風俗嬢はここで支度をし、客に選ばれるまで待機する事になる。

(マジ忙しいんだ‥)

壁一面に並んだロッカーから自分のロッカーを開け、紅色のベロアに金色のビーズ刺繍をあしらったチャイナドレスに着替え、黒のピンヒールをはいた。

仕事道具を入れたプラスチックのカゴを出してロッカーに鍵をかけ、大きなドレッサーの前に座った。

(ふー‥)

タバコに火をつけて鏡の中の自分をチェックする。ドアを開ける音がした。

「モモりん♪おっはー♪」

仲良くしてるマリだ。私より年上なのに安達佑実似の童顔。鴿胸で巨乳好きの客からウケもいい。

2年ほど前、包茎の客の扱い方も知らない私に客への接し方、客ウケする化粧まで細かく教えてくれたのはマリだ。

『おっはー。今日は早くから来てんだ?』

「稼げる日に稼がなきゃねー(笑)」

完全歩合給の私たちは客が来ないと金にならない。隣に座ってマルボロに火をつけ、鏡にうつった鼻を触りながらマリが嬉しそうに言った。

「いまさぁ、童貞クンだったんだー♪」

『マリちゃん嬉しそー(笑)あたしにはムリ!キモイ!』

「なんでー!ドキドキしちゃってカワイイやん♪お姉さんが教えてアゲル(笑)」

タイトロングに腰まで入ったスリットをめくってみせた。

『やだやだ。オバサンみたい(笑)』

金色に近い茶髪のボブに栗色ロングのウィッグをセットし、紅色の口紅を塗った。いつものモモエだ。

マリが鏡の中の私をまじまじと見て、ゆるウェーブのウィッグを撫でながら言った。

「ウィッグってすごいよねーサギやん(笑)」

『人の印象の7割りは髪型で決まるってヒガシが言ってたもん』

「ヒガシって少年隊?古いってー(笑)」

2人で笑っていると壁にかかっている受話器が鳴った。内線だ。

「モモちゃん今日6時からでしょ?店長がブツブツ言ってたよー」

立ち上がりながら時計を見ると6時半を少し過ぎている。受話器を取った。

『モモエです、おはようございます。』

「モモエちゃん?6時予約のお客さん待ってるよ!15番で指名100分ね。」

店長の声だ。

『はーい』

「早くね!よろしくー」

言い終わらないうちに電話が切れた。

『指名かぁ‥』

受話器を置きながらマリを見た。まだ鼻を触っている。

「やっぱあと2ミリだなー。やり直すってどう思う?」

去年、マリは鼻を整形をした。マリの鼻が特におかしいとも思わなかったが、マリによると顔の中心にある鼻は重要らしい。

『前のとき1ヶ月腫れたやん。またやるの?』

「だよねー、外に出れないしなー。」

タバコを消し、口紅をしまった化粧ポーチをカゴに入れてドアへ向かった。

「待って待って、マリも行く!」

マリが慌ててカゴを抱えついて来た。

『ってゆーか太った?』

体にぴったりしたチャイナドレスには体型がくっきりうつる。

「年末食べ過ぎたんだよねー。ヤバイかな‥」

お腹を触りながらマリが答えた。ドレスのサイズは9号まで、背中のファスナーがしまらなくなるとクビになる。太った風俗嬢はこの店にいない。

『マリちゃん暫くビール禁止だね(笑)』

「やめてー(笑)モモちゃん指名かーイケメンだといいね!」

控え室のドアを開け、剥き出しのコンクリートが寒々しい狭い廊下を歩いた。

『イケメンは元旦来ないでしょ(笑)』

「だよねー。今日はサミシイ人ばっかりか」

『サミシイ人って扱いやすいやん(笑)』

「最悪にウザイかどっちかだよね。」

『あ、あたしトイレ行くからマリちゃん先に行ってて』

廊下の途中にある従業員用トイレのドアを開けながらマリに言った。

『ってゆーか、何?!』

マリが一緒に入ってきた。

「パンストはくの忘れてた‥黒いTバックは見ないから気にしないで(笑)」

『見てんじゃん(笑)』

便器に座って用をたす私に背を向け、マリはカゴの中をさばくっている。

『パンスト無いの?あたしの使っていいよ』

自分のパンストを持って無い子は店が用意したものを1000円で買わなくてはならない。

形だけのパンストは100円のもので充分だ。

「ううん、まえお持ち帰りしなかった人のがあるんだー‥あった!」

『使いまわし?(笑)』

「だって10分もはいてないやん。」

『3000円かーラッキーじゃん(笑)』

「でしょー(笑)」

目の前に付きだされたマリのおしりを見ながら言った。ショーツを脱ぎ、よろけながらパンストを引き上げている。

客は3000円のオプション料金を払い、女の子が肌に直接はいたストッキングを脱がせ持って帰る。ストッキングの上から舌を這わせ舐めまわす男もいれば豪快に破る客もいる。

オプション料金はそのまま給料に加算される事になっていた。

ちなみに店のシステムは1時間2万、2時間4万、100分だと3万8千円‥うち半分が私たちの取り分だ。この辺りの店の相場より数ランク高い。

100分で私を指名した今日の客は、4万1千円払って私の体を100分間自由にできる権利を買った。

私は2万2千で客のモノをくわえ、体を触らせる。

2人廊下に出た。

「また童貞クンだといいなー♪」

『童貞がパンストなんてさらにキモイでしょ(笑)』

ドアの前に来た。

この先には女の体に飢えた客がムラムラしながらずらりと座っている。

ドアを少し開けて案内役の黒服に声をかける。薄暗い店内から音楽が聞こえてきた。

『モモエです。』
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