peach candle


□peach candle
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黒服が少し開けたドアから中に入った。

静かなバックミュージックが流れ、高級バーを思わせる薄暗い店内。

正面の壁は水槽になっており、チャイナと同じ紅色が鮮やかな熱帯魚がたくさん泳いでいる。

こちらに背を向けカウンターに座っている男性が7人ほど。幾つかあるテーブルも客で埋まっていた。

客たちは個々、ドリンクを飲みながらもっともらしい顔で新聞や雑誌、水槽に目線をやり時間を潰している。頭の中は若い女の体をどういじろうかって妄想でいっぱいだろう。

(今日は休憩ナシかな‥)

客たちにチラッと見て、無表情のまま足元を見つめて待った。

黒服が客を連れて来た。1ヶ月に2度くらいの割合でマメに通っているデブだ。険しい表情をし、待たされた不機嫌さをアピールしている。

汗かきのデブ。個人的には関わりたくないタイプ‥

でも、モモエとしてはお気に入りである。

「モモエさんです。」

『こんにちはぁ、お待たせしました。』

デブの目を真っ直ぐ見て抜群に微笑み、深々と頭を下げた。

「モモエちゃん!」

デブの顔が一気に緩んだ。

(キモイ‥)

笑顔のままデブの手を取り、待ちくたびれている男達の横をゆっくり通り過ぎた。痛い程の視線が全身に突き刺さる。デブは得意気な顔で私の手を握り着いて来た。

待合室から廊下に出る。

大理石の床に、洋風のインテリアが並ぶ廊下。部屋番号の下に<使用中>の札がかかったドアをいくつも通り過ぎ、15番の部屋に着いた。

ドアを開けた。

ダウンライトが薄暗い8畳程度の部屋。マットにタオル地のシーツを敷いただけのダブルベットが1つ。奥には備品が入っているクローゼット、その隣にはシャワールームの扉がある。

デブは靴を脱ぎ、いそいそと部屋に入った。

「ここの女の子はみんな女優さんなんだよ。」

入店前の研修でオーナーから言われた言葉を思い出しながら、札を〈使用中〉に変えドアを閉めた。鍵はかからない。

ピンヒールを脱ぎ、ベットの前でぼけっとつっ立っているデブに抱きついた。

普段と違う展開に面くらったデブは固まっている。

『今日来てくれて、すごくうれしい!』

癒し系で天然キャラのモモエは常にゆっくり話す。マリと話す時とは声のトーンもまるで違う。

デブは嬉しそうに私の腰とヒップに手をまわし、待ち望んだ女の体を撫でまわした。

少しして両手をデブの胸に当て、ゆっくり体を離した。上目づかいにデブの顔を見つめる。

『本当に、うれしいの。ありがとう。』

「モモエちゃん、遅刻したでしょう、俺予約して6時前から来てたのに‥」

(コイツ、こんなだから女できないんだよ)

聞こえないフリをして言った。

『さっきのお客さんね、すごく、嫌だったんです。モモが嫌なことばっかりするんだもん‥モモ、ガリガリの痩せた男の人は大嫌いなのに。』

デブが驚いた顔をした。気にせず今度は胸を押し付けるように抱きつき、続ける。

『嫌な人の後にね、モモが大好きな人と会えたからすっごく、嬉しいの。また痩せた人が来てたら早退したかも‥』

顔を上げ思いきりの笑顔で見つめる。デブの顔が緩んだ。

「おれも、モモエちゃんに会いたかったんだ!」

私の髪を撫でながら嬉しそうに言った。

「座ろっか!」

ベットに腰かけ、私を傍に座らせようとした。

デブから離れ、スニーカーと散らばったピンヒールに近寄りかがんでゆっくり揃えた。

腰まで入ったスリットから覗く白い脚と、Tバックの黒い紐にデブの視線が釘付けになる。

『あんまり嬉しくって、お行儀悪いことしちゃいました。』

デブが腰かけているダブルベットの隣に座りながら笑った。

『くっついてもいいですか?』

少し恥ずかしそうな顔で言った。
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