絶対遵守の王のおはなし

□優しい世界の歩き方
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《世界は虚無の涙に濡れる》


君は、世界を壊し、世界を創造すると言った。


確かに君は、世界を壊し、世界を創造した。



君の命と引き換えに。


君は世界中の怨嗟をその小さな背中に乗せて、俺の手で逝ってしまった。

俺は君みたいに賢くはないから、他に方法がなかったのかはわからない。


でも、世界は確実に、優しさを取り戻そうとしている。
だから、決して間違いではなかった。

そう、思おうとしている。


君と俺とゼロを知る人は、ゼロレクイエムがなんなのか、あの日に理解してしまった。
そして、君の最後のギアスに…ただ涙したんだ。

君はこれまで、多くの命を奪ってきた。
そして俺も、たくさんの命を散らせた。


お互いの、正義を振りかざし。


…俺は、ずっとそう思ってきた。


でも、違ったのかもしれない。


俺は確かに正義だと思って動いた。真実だと、自分が正しいのだと思って。

それは、欺瞞だね。
正義なんて、誰にも決められない。


それに、ずっと『悪』だと思って来た君の本質は、最後まで『優しさ』だった。

ナナリーに、僕に、世界に。


ただ、君は優しすぎただけなんだ。

気付いたのが、遅かったのかもしれない。


もう、世界は取り返しがつかないほどに壊れかけていた。


そして、俺は望みどおりに『ゼロ』を殺し『ゼロ』になった。

でも、そこにはルルーシュはいない。



ゼロレクイエムの意図を理解した者は、誰も真実を語ろうなんてしないだろう。
それが、君への唯一の餞だとわかっているから。
真実を語るより、未来への一歩を刻む方が、君が喜ぶとわかっているから。


でも、こう語ることくらいは許して欲しい。

「ルルーシュは、世界を壊して、世界を創ったんだ」と。


世界が一つ幸せになると、君を思い出す。
最後に微笑んだ、その悲しい笑顔を。
その度に『ゼロ』の仮面は涙に濡れる。

心地良く乾くことなんて、きっとないのだろう。
それだけ、君は俺に刻み込まれているんだ。


「ねぇ、ルルーシュ。ルルーシュは俺の親友で、ゼロは僕の敵で、皇帝の君はナイトオブゼロの主君で……じゃあ、あの瞬間は…悪逆皇帝と『ゼロ』は、ただのルルーシュとスザクだったのかな」


あの時、逃げてしまえたら…君の手をとって逃げてしまえたら、どんなに楽だったろうね。
世界は変わらないけれど、俺はきっと笑うこともできたんだ。


「ルルーシュ…」

この世には、ルルーシュもスザクももういない。
いるのは、ただ『ゼロ』という平和の記号。

だから、この涙はありえないものなんだ。


一つだけ、ただ一つだけ信じたい。
君を一突きにし、ただ涙を流した僕と、最後のギアスを僕にかけ、微笑んでいた君は、親友だったのだと。

確かめる術もないけれど、ただ、そう信じたい。

だから、僕はまた一つ罪を背負った。
これが枢木スザクの最後の罪。

父親を殺した所から始まったそれは、親友を殺して終わる。


そこで、枢木スザクはいなくなる。




世界は、君が…きっと誰よりも君が望んでいた、優しい世界に近づいている。
昨日より今日、今日より明日はきっと優しさに満ちている。


君は、世界に受け入れられたんだ。
今なら、そう言ってあげられる。



でも、この世界には……。

「…君が、いない」









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