絶対遵守の王のおはなし

□優しい世界の歩き方
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《夢の花冠は許しの証に》

気付いたら、いつの間にか外で寝ていた。
まるで、懐かしいあのアリエスの離宮のような美しい庭園。

最後に聞いたのは、ナナリーの泣き声だ。
「愛してる」と、泣きながら言ってくれた、ただ愛しい妹。
そして、耳からはなれない、親友の涙を流す僅かな音。


ごめん、ナナリー。
最後に「愛してる」を伝えてあげられなくて。

ごめん、スザク。
最後まで、お前を苦しめた。




「ルルーシュ、いつまで寝ているんですか?」

優しい声は、当の昔に失った救い。

「…ユフィ?」
「はい、おはようございます」

隣に座っているのは、あの時と全く変わらないユーフェミア。

「なんで?」
「何故って…ルルーシュが会いに来てくれたから」
「俺は、君を…」
「でも、ルルーシュは泣いてくれたでしょう?」

泣いたさ。

でも、許されることではない。
真っ白だった君を、真っ赤に染め上げたのは俺だ。

日本人の血で、君自身の血で。


「だって、貴方は全てを受け入れたのでしょう?私を害したことも、貴方は受け入れて、泣いてくれたでしょう?だったら、私は幸せだったのよ。スザクも泣いてくれた。お姉様も。誰かが信じてくれた。誰かが私の為に泣いてくれた。だから、ここにいられるのね。私は、あんなにも手を汚してしまったのに」
「ユフィは!ユフィは最後まで、ユフィだった」
「なあに、それ?」
「君は、汚れてなんていない。真っ白だった。最後の最後まで、穢れのない真っ白な姫君だった」


困ったように微笑む君に、俺はこんな今更な言葉しか言うことはできない。
違う。違う。言うべきは、こんな言葉じゃない。

「ごめん、ユフィ」
「こちらこそ、ごめんなさい、ルルーシュ」

全てを背負わしてしまって。
そう、ユフィは言った。

君が負った汚名に比べれば、世界中の怨嗟なんて軽いものだ。
君は、幸せになるべきだったんだ。
俺がいなければ、君は幸せになれた。

「でも、ルルーシュがいなければ、私は今のユフィではなかったはずよ。だから、もう謝らないで。…そうだ、ケンカをしていたわけではないけれど、これで仲直り」

ユフィはどこから取り出したのか、白い花だけで繋げられた花冠を俺にかぶせた。
ああ、なんだか懐かしいな。

「あの頃に、戻ったみたいだ」
「アリエスの離宮は、いつも優しかった。マリアンヌ様も、ルルーシュもナナリーも。守られて、守られて。私はやっぱり幸せだったのよ。大好きな人がいて、その人たちが私を大好きでいてくれた」

そうだな。
誰かが、自分たちを害するなんて思いもしなかった。
でも、いつの間にか自分は変わってしまった。
兄妹を手にかけることができるくらいに。

「違うわ、ルルーシュ。貴方少し頑な過ぎるわ?私の知っているどのルルーシュも、すべての行動原理は『優しさ』だった。ナナリーのため、スザクのため、私のため。いつも、ルルーシュのための無茶はしなかっじゃない。誰よりも、貴方が望んでいたのでしょう?優しい世界を。そんな優しいルルーシュだから、私は大好きなのよ」

なんでユフィはこんなにも綺麗でいられるのだろう。
あんな汚い皇族の中にいながらも。

考えても、これしか思いつかない。
彼女は…ユーフェミアだから。

これは、崩れることのない最強の理論だ。


きっと彼女は、俺を許すために待っていてくれたのだ。
忘れたふりをして、本当は忘れることのできなかった君との顛末を。


「だってルルーシュは、私の初恋なんだもの」

この馬鹿。
今まで、どれだけ言葉で許されようとも拭えなかった罪悪感を、ただ嬉しさと羞恥が勝ってしまったじゃないか。

「まったく、君には敵わない」
「やっと笑ってくれた。ねえルルーシュ、貴方はもう許されたわ。世界から」

嬉しそうに、幸せそうに君が笑う。
風は彼女のピンクの髪を揺らし、庭園に咲き乱れる白い花が、世界を覆うように飛ぶ。
幻想的な風景だ。

「貴方がここにいるのだって、貴方のために涙を流した人がいるからなのよ」

ナナリー、スザク…。
最後までついて来てくれた、ジェレミア、ロイドにセシル、咲世子。
カレン、黒の騎士団、生徒会の皆。

そしてC.C.。


泣いただろうか。

スザクには、酷いことをさせてしまった。
ナナリーには、酷いことをしてしまった。

みんなには、許されたいとすら思わない。

でも、泣いてくれたのだろうか。



「泣かないで、ルルーシュ」
「ないてなど」
「泣いているわ。きっと、今も誰かが貴方のことを想って涙を流している」
「誰かのために涙を流せる世界。きっと、間違ってはいないのだろうな」
「ええ、きっと」


やっと本当に、ユフィの手を取ることが出来た。

「さあ、行きましょうルルーシュ?」
「どこへ?」
「貴方を待っているたくさんの人のところへ」

ユフィに手をとられ、明るい明るい光りの中へ。
その先には、亡くしたたくさんの大切なものが待っている。


「ルルーシュ、久しぶりにチェスをしないか?」

クロヴィス兄さん、ごめんなさい。
貴方をこの手にかけてしまって。
それでも、貴方は笑って下さるのですね。

「ルル!待ってたんだよ!!」

シャーリー、ごめん。
たくさん悲しませて。
辛い思いをたくさんさせてしまって。

「兄さん。まだ、兄さんの弟でいさせてくれる?」

ロロ、すまなかった。
最期まで、守ってくれてありがとう。
そして、最後まで良い兄でいてやれなかった。
でも、これからは…。


指の隙間からこぼれ落ちた幸せの欠片を、ギリギリのところで握り締め、俺はまた涙を流す。

ユフィは苦笑して、少しだけ握る手の力を強くする。

「想っていることは伝えないと。大丈夫、一緒にいてあげるわ」
「一人でできるさ」
「もう、本当に意地っ張りなんだから」
「…プライドだ」

それでも、その手を振り解くことなく一緒に彼らに近づいた。

「ごめんなさい」と「ありがとう」を伝えるために。



ユフィのくれた白い花冠から、風にゆれた花が少しだけ空に舞った。



スザク、世界はこんなに眩かったんだな。






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