絶対遵守の王のおはなし
□EWig wIEdErkeHReN 〜永遠回帰〜
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《02》
今日のスザクは正装を纏っている。
首相の息子が同盟の調印についてくる必要なんて欠片もないのだが、それと同時にスザクとブリタニア皇女の婚約が正式に発表されることになっているのだ。
スザクの為に、既にブリタニア皇帝の娘は全て一室に集められていた。
后妃の数が多ければ、子供数も多い。
スザクより年長の皇女ともなれば少ししかいないが、それでも年頃の、結婚対象となる年齢の皇女は多くいた。
下に行けば幼女といって差し支えのない娘もいたが、選択肢から外してもよいだろう。
「スザク様、こちらがブリタニアの皇女たちです」
軍部の…確かカレンの部隊に所属している男だ。
いくら敗戦国扱いとはいえ、相手は一国の…それも大帝国の皇女。扱いは丁重に行ってもらいたいものだが、どうもこの男にはそういった品性が感じられない。
スザクは少し不愉快だった。
部屋を見渡すが、何人いるのか数を把握できない。
窓際から視線を移動させていくと、同じ父親を持つ娘でも反応は違うものだと不思議な気分になる。
既に腹をくくっているもの。自分は選ばれないようにと誰かの背に隠れるもの。侵略者である日本人に怯えるもの。泣きじゃくるもの。怒りを帯びた目で睨みつけてくるもの。
結局、皇女だろうとなんだろうと人間なんだよな。
それがスザクの出した結論だった。
ブリタニアの后妃は美女ばかりだというのは有名な話だが、故に皇女にも美女・美少女が多い。
第一皇女や第二皇女はメディアにも姿を現す機会が多い為、スザクも見たことがあるが、実際にこの距離で見ているとテレビなどを通すよりよほど美しいと感じる。
しかし、どれだけ美しかろうとも、第一皇女も第二皇女もスザクの好みではない。
第一皇女のギネヴィアはいかにもプライドの高そうな一緒にいて腹が立つような女だと思った。そして、第二皇女のコーネリアは人間として好感は持てるが、一緒にいれば疲れてしまうだろうと苦笑して目を逸らす。
どちらも、カレンが言っていた扱いにくい女に分類されそうだ。
コーネリアの傍。
眼が留まったのは仕方が無いことだろう。
ただ一人、車椅子に座った少女がいた。
年の頃はスザクより少し下だろう。
そして、その少女を守るように車椅子に手を掛けている娘。
まだ少女に分けられるだろうその皇女に、意識が向いた。
黒の髪に濃紺と白のレースがよく映える。
一歩、そちらに向かい足を踏み出す。
瞬間、黒髪の皇女がキツイ視線を送ってきた。
すぐにスザクは意図を理解し、しかし気付かないふりをしてそのまま足を進める。
目指しているのは、車椅子の可憐な少女。
「ナナリーに触らないで下さい」
伸ばした手を止められて、スザクは内心満足気に微笑んでいた。
「そんなことが言える立場だとお思いですか?皇女殿下」
「いいえ。ですから私は…お願いをしているのです、枢木スザク様」
「お願い、ですか」
「ええ。貴方はここにいるブリタニアの皇女を誰でも選び娶る権利を持っていらっしゃいます。その中に、我が妹も含まれていることは承知しています。しかし、ブリタニアをも屠った力ある日本国の代表たる枢木首相のご嫡男、それも日本軍が誇るKMFのエースパイロットである貴方が、我が妹のように力無き者をわざわざ選ばれる必要がありましょうか。確かに、眼も見えず、歩くことすらできない我が妹であれば、抵抗すらろくにできないことでしょう。ですが、この場にいる誰もが……覚悟はできております」
「…この場にいる、であれば、そちらの皇女様も…ではありませんか?」
「ですが!」
スザクが予想していた通り、この娘は妹を守ることだけを考えていた。
コーネリアも同じような印象を受けはしたが、この娘に関して言うなら、それだけが余りに突出していた。
皇族としての責任、義務、覚悟。それをかなぐり捨ててでも、妹を守るという一点に集中していたのだ。
「ルルーシュ!!いけません。それ以上、それ以上続けてはいけません」
「ユフィの言うとおりだ。少し落ち着きなさい。…申し訳ございません、枢木様。妹の暴言をどうかお許しください」
ピンクの髪を揺らして、一人の少女が黒髪の皇女の言葉をさえぎるようにその腕を掴んだ。
それに付き従うよう、コーネリアが彼女の頭を撫で、スザクに頭を下げる。
「いえ、構いませんよ、コーネリア皇女殿下。それと…」
「私は第四皇女のユーフェミアと申します」
「では、ユーフェミア皇女殿下も」
二人に軽く礼をして、捕まったもう一人の皇女を見つめる。
瞳の色は、神秘のアメジスト。
「名前をお伺いしても?」
「第三皇女 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
「ではルルーシュ皇女殿下、貴方が日本にいらっしゃいますか?」
笑顔で手を差し出したスザクの言葉に、コーネリアとユーフェミアは顔を青ざめた。
そして、どこかではホッとした声が聞こえる。
他の皇女たちならわかるが、部屋に配置されていたブリタニア側の高官やメイドも同様の反応をしているのが気に掛かところだが。
「…それで、妹をお見逃しいただけるのでしたら」
「では、貴方で構いません」
ニッコリと微笑むスザクに、ルルーシュの目つきがこれまで以上に鋭くなった。
差し出した手に力いっぱいに平手を打ち込み、引きつったままにルルーシュも返事をする。
「まあ、光栄ですわ」
「じゃあ、このまま会見会場まで行きましょうか?」
「先に向かってくださいますか。妹と少し話をさせていただきたいのです。それと、姉と妹達はこれで解放していただけて?」
「もちろんです」
スザクは笑顔のままに答えている。
言葉の通り、ルルーシュには覚悟があったのだろう。
すでにその表情は、責務を負った皇女の顔だった。
悪くない。
スザクはこの出会いに感謝すらしていた。
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