絶対遵守の王のおはなし
□きらきら☆CANDY DAYS
3ページ/10ページ
【学校は波乱万丈に満ちています】
風紀の当番を忘れていたことと、放課後にバイトがあることもあり、今日はスザクが自転車で学校に行ったので、ナナリーと2人で歩いて登校。
何もない日は、3人で歩いていく。
徒歩でも苦にならない距離に学校があるのは、朝がゆっくりできるからいい。
「お姉様、今日は学校が終わった後、遊びに行ってもいいですか?」
「誰と遊ぶのか、教えてくれたらね」
「それは私。ナナリーは今日は私と寮に遊びに行く予定」
いつからいたんだ、アーニャ・アールストレイム…。
ナナリーと仲の良い中等部生で、いつも携帯を手放さない、不思議少女だ。
まあ、アーニャとであれば…問題ないか。
「ナナリー、遅くなるようなら連絡をして迎えを呼ぶこと」
「はい、お姉様」
そのまま2人は仲良く中等部校舎へ足早に向かってしまう。
小学校の頃は、私にべったりだったのに。
少し寂しい。
「姉さーん!」
校門の傍で、聞きなれた声で呼び止められ、左腕をロックされた。
くっ。このガキ。
「なんでいつも抱きついて来るんだ!」
「だって、姉さんはいつも逃げちゃうじゃない」
「だから、私はお前の姉じゃない!!」
うんざりするほど繰り返した台詞。
そして、言ってから後悔するのもいつものこと。
「ごめんなさい。ルルーシュさんは、僕の姉さんにそっくりだから…」
「っう…わ、悪かった、ロロ」
「許してくれる?姉さん」
「あ、ああ」
初めて会ったとき、昔亡くした姉に似ていると抱きつかれて以来、この繰り返しだ。
悲しそうな、寂しそうな顔で言われると、弱い。
捨てられた子犬みたいな顔をする。
「せんぱ〜い!!」
ロロの存在を許して仕方なく二人で歩いていると、空いていた右腕も捕まった。
鬱陶しく、図々しく、大きい子供のような男はコイツしかいない。
「ジノ・ヴァインベルグ。放してくれないか?」
「嫌で〜す」
「私も嫌だと言っている」
「嫌よ嫌よも好きのうちって知ってる?」
「知るか」
後輩の癖に無駄にデカイ。
この見上げなくてはいけないっぷりが腹立たしい。
しかし、これでもスザクの友人だ。
妹としては、兄の交友関係を邪魔をしたくはない。
がしかし、耐え難い屈辱。
振り払おうにも力の差がありすぎて、逃げられないのだ。
なぜ朝から、無駄な荷物を二つも腕に引っ付けなくてはいけないんだろう。
無駄に視線を集めてしまっているじゃないか。
恥ずかしい。
「ジノさんは放してください」
「ロロこそ離れろよ」
「女性に失礼じゃないですか?」
「お前だって一緒のことしてるだろ」
「僕は、姉さんとスキンシップを取ってるだけです」
「姉だと思ってるんなら、よっぽどなシスコンだと思うけど」
そして、この言い争いも結構日常茶飯事だったりする。
なぜこんな厄介な2人に懐かれてしまったのだろうか。
朝から疲れさせるな。頼むから。
しかも、今日は風紀の当番はスザクなんだ。
これ以上の揉め事は、勘弁して欲しい。
「ルル、今日もモテモテだね」
「おはよう、シャーリー。助けてくれ」
自転車で走り抜けるクラスメイトのシャーリーは、ごめんね〜と言って助けてはくれなかった。
「ルルーシュ!おはようございます」
「ユフィ!!これをどうにかしてくれないか?」
「どうにか?ジノ、ロロ。ルルーシュを放しては下さいませんか?」
高校で再会したユーフェミアは、母の再婚前に住んでいた時のお隣さんだ。
いつも仲良く遊んでいた。特にナナリーとは本当の姉妹のように遊んでくれたのがユフィ。
今日も助けてくれるのはユフィだけだ。
しかし、そんなユフィの優しい言葉を、両腕にぶら下がるガキ共は「嫌です」の一言で一蹴してしまう。
ユフィは困った顔で首を捻ってこちらを向く。
「どうしましょう、ルルーシュ?」
そんなことを言われても、こちらも困る。
「あ、お姉様を呼んできましょうか?」
「コーネリア先生?やめてくれ、大事にするな」
「そう?では、私には助けて上げられないわ。ごめんなさいね、ルルーシュ」
本当に申し訳なさそうに言われたら、こちらも謝るしかない。
諦めて、荷物つき登校を決め歩き出すと、やはり校門にはスザクの姿。
何を言われることだろう。
「ジノ…ロロ…」
「おっはよー、スザク!」
「おはようございます。枢木先輩」
ああ、スザクが怒っている。
あの顔は、本当に、真剣に、心から怒っているんだ。
怖い…。
本気で怖い。
助けて、ナナリー。
「その手を放せ」
「嫌だ」
「嫌です」
笑顔の応酬は、ただただ恐怖を呼ぶ。
「嫌がってるだろう?」
「そんなことないって」
「姉さんは許してくれました」
ああ、お前たち、スザクの神経をこれ以上逆撫でしないでくれ!
「ルルーシュ?」
ほら来た。
こっちに矛先が向くんだよ。
「なんだ、スザク」
極力笑顔で。
「捨ててきなさい」
怒ってる。怒ってる。
捨てたいのは私だってやまやまだ。
仕方ない、とりあえずやるだけやってみよう。
「…ロロ、とりあえず離れないか?」
「姉さんは僕の姉さんなのに?」
いや、お前の姉になった気は全くないのだが。
でもとりあえず、離れて欲しいから頷いておく。
スザクはそれにも苛立っているのだが、とりあえずロロは放してくれたのでよしとしよう。
「あっ!カレン!!」
「え!どこどこ?」
ジノ…単純な奴。
そして、ごめん、カレン。
嘘で言ったつもりだったんだけれども、校舎付近に本当にカレンがいた。
目ざとくそれを見つけたジノは、全力でそこに向かっているのだから、ただただ謝るばかりだ。
「ルルーシュ、いつも言ってるだろ?簡単に男に触れさせちゃダメだって!僕はそんな子に育てた覚えはないよ」
「…私だって、スザクから教育を受けた覚えはない」
「可愛くない」
本当のことを言っただけなのに、なんでそんなふうに言われなくちゃいけないんだ。
カチンときた。
「スザクこそ、器が小さい」
「ルルーシュ?」
「だいたい、たかが5ヶ月早く生まれたからって、兄貴面するのも鬱陶しい。これまで成績で私に勝ったことがあるか?ないだろ?べつにお前が私のことを『お姉様』と呼んだって、一向に構わないぞ」
一度撃った弾は、もう止められない。
攻撃的な言葉は、後から後から溢れてくる。
「…そういう減らず口ばかり叩くから、高校生にもなって恋人の一人もできないんだよ」
冷めた口調のスザクの一言に、完全にキレた。
「はは!確かに。確かにその通りですね、お兄様?私のような生意気な女はモテないですものね」
「ル、ルルーシュ?」
ひどく丁寧に、『お兄様』と呼んでみた。
流石にキングオブKYのスザクも、何かを感じたようだ。
私がモテないとでも思っているのか、この馬鹿兄貴。
これでも受け取ったラブレターの数は数え切れないし、直接された告白だって学園一だと言われているのに。
私から全て断っているだけだ!
「馬鹿にするなよ、スザク!恋人の一人や二人、すぐに作ってやる」
流石に言ってから少し後悔したものの、驚きのあまり固まったスザクを見たら、いい気味だと思った。
「姉さん、一人はともかく二人も作るの?」
「真面目に食いつくな。ノリと勢いだ」
難しい顔で問いかけてきたロロに返答しながら、スザクを放置して教室へ向かう。
ユフィがついているから、大丈夫だろう。
まったく、学校というのはいつだって平穏ではいさせてくれない、厄介な所だ。