絶対遵守の王のおはなし

□きらきら☆CANDY DAYS
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【決して逃げたわけではありません】


『はーい!学園のみなさん、こんにちは!生徒会長のミレイ・アッシュフォードよ。今日は緊急イベントを開催しちゃいまーす!!題して、《副会長の恋人は誰だ!》です。なんと、副会長のルルーシュ自らの持ち込み企画。我が生徒会の誇る美少女生徒会長を恋人にしたいと望む貴方!これからクラブハウスにて、面接を行います。じゃんじゃんかかってらっしゃい。審査基準は、ルルーシュの兄スザクと妹ナナリーが認める者。愛さえあれば、年齢性別は問いません!!開始は今から30分後、今まで遠巻きに見ているだけだった人も、名乗り出てきなさい!その中から一名、ルルーシュとのデート一日権を進呈するから、そこでじっくりアプローチしなさい!!以上』


そんな放送を聞いたのは、校門の所。
今日はバイトで、同じくバイトに向かおうとしていたリヴァルとそこまで歩いていった時だった。

「スザク、知ってたか?」

リヴァルも驚いたようで、眼を見開いて僕に訊いてきた。
もちろん僕も知らされていなかったことで、首を横に振る。

「あのお堅いルルーシュが、何考えてんだ?」

それはもちろん、今朝のことにご立腹のまま、僕へのあてつけをしているんだろう。
それにしても、余りにも無茶苦茶な方法だと思う。
リヴァルが言うとおり、ルルーシュは今時ないほどに堅い。
これまで一度も恋人がいたことはない。
誰かを特別に好きになったと言う話も聞かない。
もっとも、我が妹ながら壮絶な美少女なので、想われることは多い。何度告白されたのか、僕も、きっと本人もわからない程だ。

「で、お兄様はどうするの?」
「どうするって言われても…」

いつか妹(もちろんナナリー含む)が恋人を見つけて、僕なんか見なくなる日が来るだろうことなんて昔からわかっていたことだ。
これまで、僕に彼女がいても、妹は特別だった。
でもきっと、妹達に恋人ができたら、僕は二の次になる。
寂しいけど、それは成長だし、仕方がないことなんだ。

そう、思っていた。

でも、これは違う。
こんな下らないことで、ルルーシュが傷つくのはおかしいだろ。
それに、家族の形が歪になるのは、耐えられない。


遠く校舎の窓に、艶やかな長い黒髪が映ったような気がして、そちらへ眼をやる。
それは、放送室の近くの廊下。

「ルルーシュ!!」

思わず怒りを滲ませてしまったが、そのおかげか僕の声はあちらにも届いたらしい。
美しい顔で舌を出している。
カチンときて、とりあえず本人に直接言ってやらなくてはと思っていると、ポケットに入れていた携帯が鳴る。

誰だよ。

「ルルーシュ?」

意外に早く打つんだな、メール。
メールででも謝るなら許しても…。

「スザク?メール、ルルーシュから?なんだって?」

「親愛なるお兄様
ルルーシュは恋に生きる女になります。
お兄様は、どうぞバイトをサボることなどなきよう、よろしくお願いいたします。
一度でもサボるようなことがあれば、向こう一ヶ月、朝食・弁当・夕食、全て抜きに加え、お小遣いも抜きにさせていただきます。もちろん、お給料は今までどおり入れてくださることを前提にして」

「おいおい、本気で怒ってんじゃねーの?」

因みに、僕の給料はそんなにあるわけじゃない。
学校が終わってから数時間を平日に3日、土日のどちらか一日に7時間程度しかシフトを入れていない。
我が家の家計は、海外の両親からしっかりと振り込まれている。
しかし、兄妹揃って遊びに行ったり、ナナリーの誕生日を盛大に祝ったり(これは主にルルーシュの強い希望から生まれた企画だ。僕もおおいに賛成したけれど)、少し特別なことにお金がかけれるようにバイトをしている。家計の助けとはならないまでも、自分たちが楽しむ為にはしっかりと役立っている。
また、僕とルルーシュのバイト代のいくらかは、ルルーシュによって貯金されており、何時の日か両親に渡す予定になっている。「育ててくれてありがとう貯金」だ。
ルルーシュ的には、ナナリーの結婚資金貯金もしたいらしい。
気になるのは、ナナリーの為のはして、自分の為の貯金はいいのかという所。
…いいんだろうな、ルルーシュは。ナナリーさえよければ。

というわけで、家の家計は基本的にルルーシュが握っている。
こまめに家計簿もつけているし、新聞の折り込みチラシチェックも欠かさない。
そして、バイト代は全額一度家に入れているのだ。そこから、前述の貯金を引き、家計簿を睨みながら、ルルーシュが小遣いとして僕に現金をくれる。なんだか、妻に家計を握られているサラリーマンのようだ。
もちろん、同じ歳ということもあり、小遣いの金額は一月で欲しいものをさほど我慢せずに買うことができる程度に十分支給されている。イレギュラーの出費があれば、それも別途捻出してくれる。

ホント、我が妹ながらしっかりした奥さんになると思う。
じゃなくて…。

僕は思いっきり脱線した思考を抱えたまま、可愛い上の妹に視線だけで訴えた。

「……ムキになって、可愛いじゃないの?」
「可愛いけど、可愛いから問題なんじゃないか…」
「ああ、まあ、確かにな。さっきから、妙にみんなクラブハウスに向ってるもんなぁ。ルルーシュが彼氏持ちか。なんだか、友達としても寂しいな」

所詮他人はそんなものだよなリヴァル。

僕は可愛いルルーシュにもナナリーにも、最高の相手と恋愛をして、結婚をして、子供を生んで、幸せな生活を送ってもらいたいと思っている。
だから、例え僕のせいだとしても、こんな馬鹿げた方法で、相手を決めていいなんて思わない。

「ルルーシュ、間違った方法で手に入れた結果なんて、意味がないよ」

でも、でも、僕は…。

「スザク、シリアスに決めてるとこ悪いけど、お前、バイト遅刻するぞ?」

だって、今日は人手が足りないんだ。

「絶対家に帰ったら、ルルーシュを叱る!!」

リヴァルの好意に甘え、サイドカーへ乗せてもらう。幸い、方向が一緒なのだ。

こんな状況でバイトに行っても、正直笑顔で接客ができるとは思えないのだけれど。
まあ、いいか。

どうせあの店は、少々特殊なんだから。
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