絶対遵守の王のおはなし
□罪は何処へいったのか
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公爵は存命中、僕をルルーシュに会わせてくれることは一度たりともなかった。
何度も、この家に来ていたというのに。
『枢木卿のような若くて凛々しい男性に会わせたら、彼女も惹かれるに決まっているからね』
それが公爵の口癖だった。
僕のことを息子のように可愛がってくれていた公爵だけに、ある意味とても意外なことで、でも、男としては当然の感情だったんだろう。
そう、思っていた。
ルルーシュも、公爵を愛していたからこそ結婚したんだと信じていた。
あの日までは。
「枢木卿、お茶を入れてくる。それまで二人を見ていてくれるか?」
「お任せください」
彼女は、ランペルージ家の全ての財産を手に入れた。
もちろん、ランペルージ家が行っている事業も含まれる。
「くるるぎきょうは、おかあさまのことすきですか?」
「どうしたの、ナナリー?」
「あのね、ななりーとおはなししてたんだ」
「何をだい?ロロ」
「わたしたちくるるぎきょうがだいすきだからね!」
「くるるぎきょうがおとおさまだったらいいのにねって!」
驚いて、言葉を失ってしまった。
僕とルルーシュには、誰にも言えない秘密がある。
葬儀から3日たった頃、バタバタしているだろうし迷惑かとも思ったんだけれど、翌日には遠征に行くことになっていたから挨拶に行った。
それくらいには、公爵にお世話になったという自覚があったから。
『こうしてお話しするのは初めてですね、枢木卿』
『ええ、そうですね。あの、この度は…』
『気を遣わずに。こうなることくらい、わかっていたので』
泣いた跡すらなかった。
間近で見た彼女は、遠めで見るよりも美しくて、早く屋敷を出なくてはと早口になっていたのを今でも覚えている。
『枢木卿』
『はい?』
『夫の遺言がある。自分が死んだら、卿を頼るようにと…』
『そうですか。もちろん、自分にできることならやらせていただきます。公爵にはお世話になりましたから』
宝石のような濃い紫は、魔性の輝きだ。
屋敷に来たのは、下心なんて一切なかった。
なかったはずなのに。
『では、枢木卿。私と一夜を共にしてくれないか』
『なにを言って!』
『はしたないことを言っているのはわかっている』
『まだ、喪に服してる最中でしょう!!』
『時間がないんだ』
触れられたら、逃げ道なんてなかった。
誘われるままに、彼女を抱いた。
人妻だったはずなのに…彼女は処女で、それを知って僕は我に帰った。
『なん…で…』
『枢木卿は公爵が私を娶った最たる理由をご存じないか?』
『それ、は…公爵が貴女を愛していたから、でしょう?』
そう。恩ある公爵の細君に自分は手を出したんだ。
今更ながらにゾッとした。
『あの男は、才能ある者に相応の地位を与えるのが好きだったんだ。枢木卿もその一人だろう?私もその類だ』
『夫人?』
『…ルルーシュと、呼んではくれないか?』
ルルーシュは僕に口付けた。
公爵はルルーシュの才に気付き、彼女に自分の築いた全てを与えようとしたのだという。
その為の結婚。
ルルーシュはそう言うが、彼女のことを語る公爵の目は恋する男の目だったよ。