絶対遵守の王のおはなし

□罪は何処へいったのか
3ページ/4ページ

翌日、僕は遠征に出た。
今のエリア21である国を落とす為に。

3ヵ月後、目的を果たしブリタニアに帰ると、ランペルージ邸へ呼ばれた。


『枢木卿、貴女のお陰だ』
『どうかしたんですか?夫人』

出向けば、嬉しそうな顔をして僕に駆け寄てくるルルーシュ。
あれ以来、言葉を交わすのは初めてだ。

僕は、気が気じゃなかった。


『身籠った』


絶句するしかないじゃないか。
頬を赤らめ、嬉しそうにそう告げる彼女。

誰の子かなんて、聞く必要もない。
彼女がわざわざ僕に言ってきたんだ。


『これで、私は全てを手に入れられる』


ランペルージの血を持たない彼女が家を継ぐ。
それは、彼女が嫁いできた時以上の批難の対象になっていた。


『…僕にできることは?』


恐ろしかった。
彼女のその計画が。

でも、それでも僕は彼女を…愛していた。


だから……。




「くるるぎきょう?」
「どうしたの?」
「なん…でも、ない…よ」



ルルーシュと僕の血を引くこども。
救われるのは、僕ともそんなに似ていないこと。
唯一ルルーシュよりも僕に似たのは、その癖のある髪だけだ。


彼女は僕が双子と触れ合うと嬉しいのだと笑う。

何故かは知らない。

ただ、ランペルージを手に入れる為だけの父親の僕なのに。



『なにも』

彼女は、そう言ったのだ。
あの時。



「君たちのお母様は、お父様を愛しているから、僕じゃダメだよ?」
「でも、おとうさまはいないんです」
「ぼくたち、さみしいよ」

僕に抱きついて甘える双子。抱きしめる手に、思わず力が入る。

でも、それは父親としての愛情じゃない。
いいや、そうあってはいけないんだ。


『ただ、たまにこの子たちに会いに来てくれれば』


それは、僕への情なのか。
それとも、父を知らない可哀想なこどもたちへの情なのか。



僕は双子が生まれる前から屋敷に通った。



それがランペルージの血族に良い印象を与えなかったことは、言うまでもないだろう。


『気にすることはない』
『でもさ、君が良く思われないと…計画に支障があるんじゃないの?』
『言い直そう。枢木卿が気にすることはない。やましいことをしているわけでもないし、いつもジェレミアと咲世子を同席させている。それに、貴方はただ夫に先立たれた哀れな未亡人な私を励ましてくれているだけだ』


そうやって、僕は蚊帳の外だ。
それでもいつも帰るとき、彼女は決まって『また』と言う。

確かにやましいことはない。
あの、一度意外は。



双子が生まれた時、僕は戦闘中だった。

「こら、ナナリー、ロロ!枢木卿を困らせていたな」
「おかあさま!」
「おかあさま!!」


ルルーシュは、一人で二児の母になった。
EU遠征中にランペルージ家の執事であるジェレミアさんから連絡が入った。

早くこどもとルルーシュに会いたいと願ってしまったことは許して欲しい。


『枢木卿、EUでもご活躍されたそうで』
『ランペルージ夫人の方が、大変だったみたいですね。見舞いが遅くなり申し訳ありません』
『病気ではないし。ただ、二人生むには…私の体力では難しかっただけで』


3週間後、やっと本国に帰れた僕は、真っ先に彼女が入院している病院へ向った。
帝王切開での出産は、一応無事終了。
双子は元気に泣いたそうだ。

でも、もともと体力がなく、妊娠中はとみに食欲が無くなっていたルルーシュは、一連の疲労から入院してしまった。

双子も一緒の病室にベッドを設えてもらって寝ている。


『咲世子、枢木卿に抱かせてあげてくれ』



我が子との対面。
いや、僕の子じゃない。
ランペルージ家のこどもだ。

まだ顔色のよくないルルーシュが見守る中、僕はロロを抱き上げた。
ふわふわのほっぺた。
柔らかすぎる体は、抱いていて不安になってしまう。
顔に出ていたみたいで、ルルーシュも咲世子さんも笑っていた。


『可愛いですね。貴女にそっくりだ』
『…私のような女には似て欲しくない…な。真っ直ぐで、優しい、枢木卿のような人間になって欲しい』


言葉を繋げなかった。

遠征に行く前に見た彼女より、若干やつれた顔。
でも、いつよりも美しい笑顔だった。

やめてくれと叫ばなかっただけでも、褒めて欲しいものだよ。



父と名乗ることも、君を抱きしめることも許されない僕にそんなことを言うなんて。
本当に、酷いひとだ。



「枢木卿、こどもたちが申し訳ない」
「いいえ。ぼくにとっても、生まれる前から知っているので、可愛くて仕方ないんです。こうして相手をしてもらえて、嬉しいんですよ」


そう。幸いにも、ナナリーもロロもすぐに僕に懐いた。
二人が喋り出す頃には、僕がランペルージ邸に顔を出すことに対する世間の見方が変わってきていた気がする。


ルルーシュは若い。
どう考えても、ランペルージ公が無理に娶ったんだと思えるくらいに。


だから、いつ再婚してもおかしくないんだと。




そんな言葉、ルルーシュには関係なかったのだけれど。

そして、僕も。



だって、そんなこと僕らが一番知っていたのだから。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ