†欠片

□不変
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漸く、気が済んだ。

足元に転がった体は、ぐったりと動かない。
くっついた頭は血だらけ。ご自慢の金髪も台無し。
その顔は、気味が良い程にぐちゃぐちゃだった。

「終わったか」

何処も彼処も似たような体が散らばっている。
立っているのは、私と、

「終わったよ」

蛭魔だけ。

「ったく、手前程キレるとめんどくせぇ奴はいねぇな」

溜め息を吐きながら、呻き声の体を避けてこちらに来る。

「…先に仕掛けて来たのは向こうだよ」

先程まで散々顔を殴り飛ばしていた手を、異常が無いか確かめる。

「ケケケ ま、これでこいつらの脅迫ネタゲットだ」

ニタリと何時もの般若顔で、何処からかビデオを取り出す。
用意周到と言うか、何と言うか。
まるで動じない。私の本性に。

「…全然、動じないね」

ふと口に出た疑問。
何時も思うのだ。
普通なら逃げる。騒ぐ。怯える。恐怖する。そして敬遠し離れていく。
蛭魔は、動じない。
初めてこれを見た時も、ちょっと片眉を上げただけ。
後は今と同じ。動かない彼等から脅迫ネタを採取するだけだった。

「似た様な奴を知ってるからな」

ゴソゴソと血まみれの体をあさりながら、何気なしに言った。

「手前と同じで、すぐにキレるし手がつけらんねぇ。だから、こうして利用させてもらってたんだよ」

発見した携帯を操作し、何かしらいじる。
可哀想に。これで彼等は悪魔の奴隷。
可哀想にしたのは、誰。

「…そ」

それだけ言って、薄暗い路上裏から出た。
そこから出てきた私を、気に掛ける人は居ない。
携帯。友達。店のショーウィンドウ。気になる彼女。
誰もが自分の好きな物を見て。向かってく。

―それで良い。私など眼中に無い。それで構わない。
群れるだけ無駄。集まるだけ迷惑。
見るな。聞くな触るな近寄るな。

間合いに入れば―潰す。

蛭魔の言う、私に似た人。
その人は、きっと私と違うんだろうな。

「何ボケッとつっ立ってんだ」

蛭魔が、カツンと靴音を立てて隣に立つ。

「手前が送ってけっつったんだろ。行くぞ」

蛭魔が歩くと、今まで見向きもしなかった群衆が道を割った。
私と違って、蛭魔は殊更自分の恐ろしさをアピールしているからだ。
私は隠す。
誰も私を見ない様にと、本性を隠してきた。
その本性を、あの人はいともあっさりと見破った。
私の間合いに、いとも簡単に入り込んだ。
潰す隙もなく、ただ馴染んだ。

だから、今私の側に立つのは、蛭魔だけ。

きっとこれからも。

恋人でもなく友人でもなく敵でもなく。
ただ、立っているのだろう。

何時か潰す時が来るかもしれない。
彼の動かぬ体の様に、目の前に立つ背中を蹴飛ばし踏みつけるかもしれない。

それでも尚、立ち続けるのだろう。


根拠も論証も無く、ただ思った。

















 

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