新 選 組 奇 譚

□金平糖の星座奏、五線記譜法
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「…総…司…?」

脳裏と心裏を同時に鈍く、黒々示威ブツで、重たく、想たく、殴りつける容赦ない【現実】

眩暈、気絶、痛覚、
掌で弄ばれ堕ちる、
無慈悲な運命論

ーーー

『僕、近藤さんのために…もっともっと強くなるために、ここに来たんだ』

『…あっそ、ほざいてなクソガキ。…役不足、』

ある日の懐かしいワンシーン。
其処には、悔しがりながらも、最近覚えたてのクシャッ…とした顔で笑う幼い沖田と、此の年齢で無愛想な表情を持つ幼い夜が居る。

『…っ、夜さんより僕の方が近藤さんを守れます!…そして誰よりも僕は、夜さんの為に生きます…』

揺るぐ事の無い、堅いアイデンティティー
欲張りで強情な彼らはーー
こうやって今まで共に、生きてきた。

ーーー

「…夜さん、驚いた?」
沖田は、クスクスと普段浮かべる悪戯な笑みを見せながら柔らかく語りかけた後、フッ…と蝋燭の灯火が消えたように表情を暗くしたと思えば、「…この間の健康診断で明確になったんだ…」とぽつりぽつりと、静かに言葉を紡いでいく。

「…松本先生には、近藤さん達には黙っておいてって頼んでおいたんです。…だから、この事は…夜さんだけしか知らない…。」
先程から沈黙を守り、反応を示す事のない夜の頬に手を触れながら、彼の涙の流れる道筋を予想しながらツッ…と指で優しくなぞる。

余り感情を映す事の無い此の綺麗な顔が、己の【死】によって何を映すのか、…もしかしたら、この紅い月から涙石を産み出す事はあるのか?

沖田は己の死をも、夜の表情の為の材料として扱って仕舞っていたー…。

現在の夜の心情としては、己と全く同じ選択をした沖田に怒鳴りつけたい怒りの感情と、其れは許される事が出来ない虚無…そしてこれ以上、己から大切な存在を奪うのは許さない、との悲壮感…兎に角、心底平和では無い感情の渦を巻き上げているのであった。

「…総司。」
沖田の指が紅金双方の涙の予想道を辿り終えた頃、静かに夜の低い声が響き、沖田はいつも通り「はい」とはっきりと存在を主張する。
僕は、いつでも貴方の側に居ますよ、とでも改めて誓う様にー…。

「…お前さ、あんときの賭け、忘れてねーべな?」

「…えっ?もしかして…」
沖田が不思議そうな表情で夜を見つめれば、「ん、お偉いさんの前でやった上覧試合の時の、」と放ちながら紅い月の輝きを強くし、沖田が覚えていた事に「よしよし、イイコ、はなまるー、」と言い、沖田の頭をガシガシと撫でながら褒めてやったのだった。

「…夜さん…痛いです…」

「あ?我慢しろ、褒めてやってんだ、」

「…だって、僕から仕掛けた事ですし…それで今どうしてその話を…?」
やっぱり僕はかないませんでしたけど…どうしても夜さんが欲しくて…と呟いた後、沖田は、ウットリ…としながら身を委ね夜に問えば、 夜は「んー、」と静かに言葉を紡ぎ「…俺、賭けの代償、保留したままだべ?」と、ゆっくりと繋げていった。

「…総司、てめーは俺の為に生きて、俺の為に死にな?
俺に賭け挑んで負けたなら、代償は楽じゃねーよ、」
労咳より、苦しいんじゃねーの?と見下した表情で放てば、沖田は翡翠を思い切り開き驚き「…そんなの!いつだってそうでした…!だけど僕はもう、だんだん刀を握れなくなって…逆に貴方の足手纏いになっ…」と、途中で言葉を遮られ、先程まで夜の涙を考え望んでいた沖田は、逆にボロボロと涙を零す事になった。

「黙りなクソガキ、 …生死を決めるのは俺。
…許可無く勝手に死んだら、許さねーからな?」
夜は沖田の頭上で印籠を傾け、ザラザラザラ…ッと中身の金平糖と飴玉をぶち撒ければ、「誓え、」と静かに優しく見下し、そして沖田を両腕で大切そうに包み込み抱きしめると、沖田の翡翠から、脆く綺麗でそして何より、誰よりも勝る【忠誠】が輝く涙石が産まれ転がるのだった。

「…まあ、飼い主が最期まで面倒見るのは、当たり前だべな、」

「ははっ…夜さん、ほんとにそればっかりなんだから…!」

「何、文句あんの?俺に爪立てんの?…おら、さっさと理解して返事、」

「…はいっ…!喜んで…!」
金平糖は、沖田の涙と暖かい昼間の太陽から源を貰い、キラキラキラキラ…と、夜空の星に【命】の証明を譲らない程、美しく強く輝いて魅せた。

(悪く言えば金魚の糞、良く言えば酸素)
【僕らの最上級の決意】
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