新 選 組 奇 譚

□黯然で塑性した景、少女の汗泪は逐い衝かず凍え変若
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(でも、早く父様を探しに行かないと…。)
でも自分から土方に頼むのも少し怖いと思い、しかし此処はもう駄目で元もと、今は土方は出張で不在なので、とにかく幹部の誰かに相談してみようと千鶴は立ち上がり、思い切って部屋を出たのだった。

こっそり出て行くと、中庭に沖田と斎藤と夜の姿が目に入り、千鶴は挨拶をした。

「おはよう、千鶴ちゃん」と沖田は驚く表情をすることなく返すと、チャンス!と言わんばかりに隣にいた夜の腕に手を回し、グイッと抱きついた。

「お嬢、てめー部屋から出やがったな?」と夜から呆れた顔をされ、あんだよ総司、と引っ付く沖田の頬をむぎっ、と摘む。

それを見てた斎藤は、酷く沖田に文句を言いたげな顔をし彼を睨み、悪戯に舌を出す沖田と数秒の間、バチバチ…っと火花を散らし無言で沖田を引き剥がしながら千鶴に「何か用か」と言葉だけを投げた。

「ったく、おめーら毎日毎日、喧嘩両成敗、」
いきなり喧嘩しやがって、何が不満なんだ、と沖田と斎藤の頬を同時に摘むと、つねられる二人は少し驚く顔をする。

「夜の鈍感…」
斎藤が拗ねたように、夜に摘ままれた頬をさすりながら文句を漏らすと、夜は「あ?」と声を漏らすだけだった。

「…で?千鶴ちゃんは何の用かな?」
斎藤の前で、夜に引っ付けた事に満足したのか、機嫌良さげに千鶴に問えば、知らず知らずのうちに二人に嫉妬してしまったのか、面白くなさそうにしてしまった顔をハッと戻し、「実はーー」と包み隠さずに相談した。

そろそろ父親を探しに外に出たい、と相談すれば、斎藤から無理だとの却下の答えが返ってきて、千鶴は一瞬怯むが、諦めるわけには行かず、グッ…とした表情で「何とかなりませんか…?屯所の周りだけでも…」と頼む。

「僕達が巡察にでる時に同行してもらうのが一番手っ取り早いんじゃない?」
沖田の言葉に反応し、思わぬ方向から助け舟が来た、と思った直後、「でも、巡察って命がけだよ?自分の身くらい自分で守ってもらわなきゃ」と沖田は言い、少し意地悪な笑い方をする。

「…私だって、護身術くらいなら…!」
なんだか悔しくなり、千鶴はもごもごと反論すれば、隣から溜め息が聞こえ、面倒だと言わんばかりな表情をしながら夜が言葉を発する。

「…ん、その腰のもんが飾りじゃねーっての、俺に証明してみな、」
生気の含まない、千鶴にとっては少しだけ怖いように感じる金と紅の目を小太刀に向けられた瞬間、千鶴は驚く声をあげた。

今まで一度も、決して目を合わせてくれない夜の目と、己の小太刀を交互に見比べる。

「加減はしてやんよ、
…それとも、強いのは気だけで、最後は泣いて助けて貰うか?」
夜が放てば千鶴は思い切り動揺し、それを見た彼はウンザリしたような表情で見下す。

だから、女ってめんどくせーんだよ、と零すと、千鶴はくやしそうに「そんなことありません。道場にも通っていました!」と大きな声を出す。

だから、という接続詞に千鶴の胸はツキンー…と痛くなった。
夜の過去かそれとも現在に、女の人絡みで何かあったのだろうか…?
ちくちく、と痛む胸を誤魔化しながら「斬りかかるなんて出来ません!」と、つい声を荒げてしまった。

「…んぐ、?」
千鶴の勢いに、少し鋭い目を緩ませ、呆気ない声を出してしまった夜に、千鶴は、ハッと我に返り「だっ…だって、刀で刺したら、人は死んじゃいますっ!」と慌てながら放つと、

……。

数秒の間、しん…と沈黙が続く。
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