新 選 組 奇 譚

□鶴が鳴く熱い心情、桜桃の揺り籠
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元治元年 六月ーー
ある日、千鶴は土方に呼び出された。

「失礼します」
夜と沖田と平助も同席していた為、千鶴は内心で安堵の息を漏らす。
やはり土方と一対一で話をするのは、酷く緊張するものだ。

何を切り出すべきかと迷っている間に、土方は不機嫌そうに口を開く。

「お前に外出許可をくれてやる。」
土方の急な言葉に、千鶴は上擦った声を上げ聞き返すと、土方は渋そうな表情のまま続けた。

「但し、市中を巡察する隊士に同行し、隊を束ねる組長の指示には必ず従え」
やっと外に出て、父親を探しに行ける事に喜ぶ千鶴は、はいっ!と返事をし、キラキラとする顔で微笑んだ。

(夜さん達が…土方さん達に頼んでくれたんだ…!)
そう思い、チラッと沖田と夜の方を見れば、沖田はふわっと柔らかい雰囲気を出してくれるが、夜はいつもと変わらない、無表情のまま、んべっ、と舌を出した後、ふいっ、と顔を背けて仕舞った。

千鶴は凄く眩しい顔で、口には出さず表情で「有り難う御座います!」と御礼を言ったのだった。

「総司、平助。
今日の巡察はおまえらの隊だったな?」
土方は二人に問うと平助は、なるほどねー…と察し、自分らが呼ばれた理由を知ると少し困ったように眉を寄せた。

「でも、今回はオレより総司向きじゃないかな。今日は総司の一番組が昼の巡察を担当だろ?」
平助の八番組は夜担当で、夜より昼が安全だ、というのは沖田も夜も同じ意見だった。

「でも、逃げようとしたら殺すよ?浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?」
冗談のような口調で千鶴に向かって言う沖田を、土方は鋭い目で睨みつけた。

「いいわけねぇだろ、馬鹿。
何のためにおまえに任せると思ってんだ。」
ため息をついた後、「夜」と一言放ち、今までの話に己に関係無い、とのように壁に寄りかかり一連の流れを聞いてた夜は、不意に自分の名前を呼ばれ、土方に目だけを送った。

「おまえも付いてけ。」
十一番組には組長抜きで他の仕事してもらうから、と土方が放てば、夜は不満そうな表情をして「あ?何で俺が行くんだよ、総司いりゃいーべ、」と文句を垂れると土方の目が鋭くなる。

ーーヒュッ…!!
夜の顔のすぐ横の壁にトンッ、と小さな棒付きの飴の串の部分が刺さり、いいから黙ってついて行け、との威圧感が掛かれば夜は、やれやれ…と渋そうな顔をし「…あいよ、」と零し、その小さな飴を、刀と一緒に下げてある印籠の中に閉まった。
可愛い飴につられた、とはけして本人は認めないが、土方は夜の扱いを良く解っていらっしゃるようだ。


(…なんだ今のやりとり…)
平助が少し青い顔をしながら二人を見ていると、沖田が「その印籠…懐かしいですね。」と言いながら、ちょこんと触れると、土方は溜め息をつきながら「…自分の印籠が、まさか菓子入れになってるなんて…あいつも思ってねえよな。」と零すと、夜は悪戯な笑みを浮かべ「なに言ってんのー、遺品だろ、」と言いながら舌を、んべっ、と出した。

平助と沖田は可笑しそうに笑い、千鶴は不思議な顔をしていると…フルフルと怒りに震える土方は、今度こそ腰を持ち上げ夜に近づき、手で拳を作り、ごつん!と夜にゲンコツを食らわした後、話を元に戻した。

「長州の連中が不穏な動きを見せている。本来なら、お前を外に出せる時期じゃない。」
土方は厳しい顔をし千鶴に放てば、千鶴は、なら何故許可を?と問うと「京の市中で、綱道さんらしい人物を見たという証言が上がってる。」と続け、何より半年近くも辛抱させたし…と土方は、千鶴の事を考えて気遣いを見せたのだった。

(…俺にも、気遣いくれよ、)
むー、と顔を不満げにしながら殴られたとこをすりすり撫でていると、最近、腹の具合が悪い隊士達が多く、万全な状態じゃないとの話が出る。

目眩がする程、猛暑が続く京。
新選組隊士の多くは、この暑さのせいで体調を崩しているようだ。

「…とにかく巡察、いこーぜ?」
夜がさっさと行くべ、と立ち上がれば、慌てて後を追うように準備をする。

正直、夜の体調も万全ではなく、腹はなんともないのだが、只でさえ風がない猛暑の中、風通しが悪い建物に居ると呼吸が辛く、心臓に負担が掛かるのであった。
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