新 選 組 奇 譚

□必然の邂逅、薄桜を語る蓋然の要
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あちこちから浪士たちが集まっている今の京は、決して平穏な場所ではない。

主家を持たない浪士達は、人々から無理矢理、金を巻き上げ、侍という権力を笠に着て、暴力を振るう乱暴な浪士達も集まっている京の都。

夕方も眠り夜が訪れる京の町で、千鶴は、己の父親の安否を心配していた。

(松本先生の自宅は解ったけれども、留守だったなんて…)
そして先程の目的を果たし、その結果にもがっくり肩を落とすが、落ち込んでる暇は無いと気合いを入れ直し、夜の空を見上げる。

ーー「道中気をつけな」ー…
先程出会った、己の口に大福を押し込んできた男の言葉を頭の中でリフレインさせると、まずは泊まる場所を探さなくちゃ、と千鶴は、大股で歩き出した。

(袴も履いてるし、男の子に見えるように変装したのにな…)
又しても千鶴の脳裏を、先程の悪戯な笑みを浮かべ、「嬢ちゃん、」と投げる男の顔が支配する。

(…もうっ、あの人の事はもういいってば!)
顔を赤く染めながら、脳裏に浮かぶ彼の顔をパッと消し払っていると、いきなり後ろから「おい、そこの小僧」と話しかけられた。

弾かれたように振り返れば、三人の浪士が千鶴に視線を向け、ニタニタと笑っており、千鶴は、…何か?と平静を装いながら、とっさに小太刀へと手をかけ、今まで学んできた護身術を繰り出せるように姿勢を直す。

しかし、三人を一度に相手取るのはさすがに…と冷静に判断し、ぐっと相手を睨む。

浪士達は、千鶴の持つ小太刀を見て厭らしく笑い、寄越せと申し出てきたが、家に代々受け継がれる大切な小太刀を絶対に渡すわけにはいかず、千鶴はきびすを返し、一目散に逃げ出した。

ーーー

(…っ、しつこいなぁ…!)
ずいぶん走って逃げてきたような気がするけど、浪士達は怒鳴りながら追いかけてくるので、千鶴は更に狭い路地を駆け抜ける。

彼らがまだ追いついてこないのを確認し、千鶴は家と家の間に身を滑り込ませ、立てかけられた木の板で姿を覆い隠した。

「…あれ?」
千鶴は、どこ行ったんだ、と彼らの怒声を荒げる場面を想像していたが、いくら待っても浪士達は現れない。


「ぎゃあああああああ!!」

その時、彼らの絶叫が聞こえてきた。
静かに隠れ続けるのが本来なら一番賢い行動なのだろうがーー。

人の命を刈り取る可能性を秘めた、得体の知れない何かが間近に存在しているのを察すれば、千鶴は、怖くて怖くて堪らなくなった。
そして何故か、その【何か】を知ろうとしてしまうのだった。

綺麗な満月に悪戯に囁かれ、楚々のかれて仕舞ったかのように…路地から顔を出し、駆けてきた道を覗き込む。

その瞬間、千鶴の目の前に月光に照らされた白刃の閃きと、翻る浅葱の羽織ーー…。


「ひひっ、ひひ」
浅葱の羽織を着た人々は、助けてと命をこう先程の浪士達に躊躇いなく刀を振るい、断末魔に甲高い哄笑が重なった。

(…あ、あ…)
今、目の前で繰り広げられている無惨な殺戮に、千鶴は足に力が入らずその場にへたり込んでしまった。
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