新 選 組 奇 譚

□黯然で塑性した景、少女の汗泪は逐い衝かず凍え変若
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千鶴が新選組の屯所で暮らし初めて、早くも一週間が過ぎようとしていた。

千鶴には、基本的には自由な生活と専属の部屋が与えられ、殺される寸前だった事を思えば、今の待遇は涙が出るほど有り難いものであった。

(だけど、ずっと男装したままって言うのは…)
やっぱり、案外と不便なもので、つい溜め息が出てしまった。

新選組預かりの身柄となったが、不安要素が多い現状で迂闊な行動は取れないし、やはり女として屯所に置くわけには行かない、と言われ男装を続ける事になったのだ。

「例え君にその気がなくとも、女性の存在は隊内の風紀を乱しかねませんしね」と、山南の説明が入った時に「乱す程、色気ねーから大丈夫だべ、」と舌を、んべっ、と出しながら悪戯な顔してにやついた夜を思いだし、千鶴は一人で頬をふくらませた。

(なっ、なによぉ〜〃)
挙げ句の果てには、お嬢は色気より食い気だろ?と刺されたのを思いだし、ぷんすかと手を振り回し拗ねる千鶴であった。

ーーそんな感じで現在に至る。

(せめて、隊士の皆さんの役に立てればなあ…)
隊内の事も、屯所の事も余り解らない千鶴は肩を落とす。
見ず知らずの子供がいきなり屯所に来て、急に一人部屋を与えられ、しかも余り仕事といった仕事をせず過ごしている訳で、それが幹部から可愛がられているように見えて…余計に他の隊士から冷たい目で見られる事に千鶴は胸を痛ませていた。

(特に、夜さんが当番の時の隊士さん達からの目が何倍にも増して、痛くて辛いんだよね…)
幹部達は只、千鶴が余計な事を口走らないように代わる代わる監視しているだけ。
夜の監視当番の時の一層、鋭い視線の理由は、恐らく彼は新選組一、人気者であり、その彼と付きっきりで供にし、彼を独占している様に見え、嫉妬からくる気持ちがあり、鋭いのではないのだろうと千鶴は思った。

(あんなに意地悪なのに…)
一週間しか居ない千鶴でも、やはり夜の人を引き付けるオーラを体で嫌と言うほど感じ、周りの人たちの表情や会話を聞いていれば、一目瞭然であった。
それ程、彼の存在は、新選組にとって大きな、大きなものなのだという事ーー。

(私も、彼がいなかったら…)
今頃、どうなっていただろうと考え、身震いを起こす。
千鶴の処遇を話し合っている時に、さり気なく夜は千鶴の事を庇い、彼の発言力に威力が在るのと、周りは彼に対して絶対的な信頼が在る御陰で…処遇の話は上手くすすみ、こうして今、夜の御陰で、千鶴は京で生きて過ごして居られるのだ。
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