新 選 組 奇 譚

□鶴が鳴く熱い心情、桜桃の揺り籠
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(…うう、もう行っても大丈夫だよね…?)
昨晩の夜の事が気掛かりで、余り寝付けなかった千鶴は、朝の巡察に向かう隊士達が動き始めるのを見て、彼の部屋に向かうか向かわないか…右往左往ぐるぐると自分の部屋を歩き回っていた。

(…でも、夜さんは今朝の巡察当番じゃないみたいだし…まだ寝てるかな…)
うーんうーん、と悩む千鶴は、とうとう爆発してしまい襖にうなだれるが、いつまでもこうしてても仕方ないと思い、思い切って部屋を出て、夜の部屋に向かった。

(よ、よし…!)
不安と心配と、男の人の部屋に入る緊張も入り交じり…心臓が煩いくらいに高鳴るのを無視して、とんとん、と襖を叩き、小さな声を放ち、部屋の様子を伺うが…。

しーん…とする部屋に、千鶴はあれ?と不思議に思うが、まさか、やっぱり具合が悪くて動けないのではないか、などと悪い方向に考えて仕舞い、慌てるように襖を開けて部屋に入る。

「失礼します!」
夜さん、大丈夫ですか…?とすぐさま敷いてある布団に手をかけ覗きこめば…

「…すかー…」
慌てる千鶴をお構いなしに、気持ち良さそうに寝息をたてる夜の姿が、千鶴の目に映り込んだ。

彼は寝相が少し悪いのか、少し布団が乱れており、よく見ると寝間着も乱れており、綺麗な白い肌を持つ胸が大胆に開けられている。

「…っ…〃」
かああっ、と頬に熱を感じる千鶴は、小さく「ごめんなさい」と謝ると同時に、安心感が舞い降りてきて、ほっと安堵の息をつく。

(…私…、本当に夜さんの事ばかり…)
気が付けば夜の存在が胸や脳を占めている己を不思議に思い、しかし顔はまだ熱を保ったままの千鶴は、ドキン、ドキン…と胸を鳴らしながら夜の寝顔に視線を奪われる。

(凄くー…綺麗ー…)
しっかり見張っておかなければ、掴んでおかなければ、いつの間にかスッ…と消えてしまいそうな白い肌や、文句の付けどころが無く、人間離れしたような余りにも整った顔に…千鶴は時間を忘れる程奪われ、つい己の手を夜の首もとの「楔」の刺青に触れてしまった。

(何の意味が、籠められてるの…?)
千鶴は、煩いくらい高鳴る心臓の音の中に、夜の事をもっと、もっと知りたいー…という感情が混ざるのに気が付いてしまうのであった。

「…夜…さ…ん…」
私、貴方の事ー…

凄く切ない声で、囁くように彼を呼ぶと、「…ん、」とくぐもった声が聞こえ、千鶴が我に返った瞬間には、夜の目が少し開き、二色の輝きを灯させようとする。

「…ん…ぅー…」
するといきなり夜は、己の片手をあげ千鶴の身体をグイッ、と引き寄せ、素肌の胸に納める。

(きゃあああっ!?〃)
千鶴は急な展開に、顔を真っ赤に染めながら慌てふためくが、パニックに陥り声が出なく、茹でタコ状態な顔は、以外と広い彼の素肌の胸元に埋まる。

(やだやだやだっ…〃)
どうしよう、と泣きそうになる反面、触れる彼の温もりに、ずっとこのままでいられたら…と思って仕舞っていると、頭上から「…ん、やらけー…」と声がすると、更に強く抱きしめられた。

完璧に硬直してしまった千鶴は、涙を目に溜めながら動けないでいると、また頭上から今度はハッキリした「…うげ、お嬢…?」との声が聞こえ、千鶴もやっと我に返り、慌てて彼を突き飛ばしてしまった。

ーーー

「…何で、あんたがいるんだよ、」
こんな朝早くになんなんだ、と布団の上に胡座をかき、しかめっ面で夜は千鶴に問えば、千鶴は未だに茹でタコ状態のまま慌てて理由を話す。

「…残念、悪趣味な奴の視線に気がついて、さっさと退散しちまいましたー、」
お嬢って、覗き見が趣味なんだ、と舌をだしながら意地悪に言う夜に、千鶴は「違いますっ!」と顔を赤くしながら否定をすると、悔しくなり言い返してやった。

「夜さんなんて…その…えっちじゃないですかっ!」
いきなり抱きしめるなんてっ、と涙を溜めながら言えばさすがに夜も、ぎょっ、とした顔になり言い訳を吐く。

「…っせーな、寝ぼけて抱きしめたら…柔らかかったんだから仕方ねーべ、」
眉間に皺を寄せながら千鶴に放つと、千鶴はその言葉にまた茹でタコのように全身真っ赤になり湯気をたたせ、ふるふると震えながら「夜さんのえっち!しらないっ!」と声をあげ、バタバタと音をたてながら部屋を出て行った。

(…何なんだ…?)
減るもんじゃねーし、別にいーだろ、なんて思いながら彼はもそもそ…と布団の中に戻っていくのであった。
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