新 選 組 奇 譚

□剥き出しの紅蓮柘榴、嘘の終焉
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滑濡と、嫌に輝る星を司る今宵の闇ーー…
後に、新選組の歴史を語るに重要な一節の事柄を描き、墨を飛び散らすには、中々相性は良い画用紙では無かろうか。

「…風間、池田屋で長州の会合が始まります。」
天霧…、と、風間と呼ばれた男が放てば、眉間に皺を寄せ不機嫌な表情をしながら、目的の場に向かう。

(…ちっ…)
本来であれば何故この俺が、と激しく文句を言いたい所だが、義理堅い性分故、致し方なく足を進める。

「…!?…この気は…」
目的地に足を運ぶに連れ、懐かしく愛おしい気を、己の第六感で感じ取る風間は、先ほどまで気が向かなかった仕事も、何かを察すれば、もしや今宵…と形の良い唇で頬笑みを表現した。

(…夜…)

ーーー…

「夜ー!」
同じ頃、屯所は急に騒がしくなって皆がバタバタと走り回る中、がばっ、といきなり抱きついてきた平助を夜は予想するわけもなく、「…ぐえっ、」と潰れた声を出しながら平助を支える。

「あんだよ、」
いきなり何すんだ、と文句を垂れながら平助の頭をグシャグシャに撫でれば、平助は「うわっ!鉢金、せっかく気合い入れて結んだのに!」と慌てながら直し、へへっと笑いながら夜の隣を独占する。

「いーっつも総司や一君やらに夜の隣、独占されちまうんだもん。
たまにはオレが貰ってもいいだろー?」
討ち入り前で、他の皆は緊張した空気を張り巡らしているが、平助のみはニコニコしながら夜に擦り寄った。

(忘れてた、こいつ、戦場を楽しみながら駆け巡る奴だった…)
夜は、擦り寄る平助を、やれやれ…と見ながら彼の頬をむぎっ、と軽く握れば、「…むぅ…っ、」とくぐもる声が発せられた。

わりーわりー、と言いその後、平助の頭をよしよし、と撫でながら、夜は何となく自分のふとした勘に逆らえなく、言葉を放って仕舞う。

「平助、楽しむのも悪くねーけど、今日は、ちと抑えて気をつけろ、」
いいな?と真剣な目で平助を撫でると、平助はきょとん、とした顔をし、すぐさま何時もの笑顔に戻る。

「特攻隊長なんだから、オレ!」
でもまぁ…夜が言うなら、と頬をぽり…と掻きながら小さく頷けば、夜は、よしよし、イイコ、と言いながら、ぺちんと平助の頭を軽く叩いた。

「近藤さんの隊は十名で動くそうだ。」
斎藤が静かに放てば、原田は、俺ら土方さんの隊は二十四人だったか?隊士の半分が、腹痛って笑えないよな、なんて言いながら笑っていた。

近藤達は池田屋に向かい、土方達は四国屋に向かう。

ーーー

ーー戌の刻。
千鶴は伝令役として近藤達と池田屋に到着し、周辺を走り回った千鶴が、池田屋の前に戻って来た時にはー…

「こっちが当たりか。
まさか長州藩邸のすぐ裏で会合とはなあ」
永倉が呟けば、沖田と世話話のような軽い口調で話しており、二人からは緊張を感じられなかった。

「…夜さん、そろそろですね…?」
千鶴は、隣に居る夜に話し掛けてみても、何も返事がなく、不思議に思い彼に顔を向けてみると…。

「…夜さんっ…!?首がどうかしたのですか…?」
夜は、顔をしかめながら己の首元の「楔」の刺青を手で抑えては庇い、「…や、別に、」と、酷く痛そうな表情をする夜に千鶴は心配になるが、二度目に質問した際には、頭をぽんぽん、と撫でられ「いーから、大人しくして此処にいやがれ、」と少し力を込められ頭をぐいっと押されて仕舞うが、千鶴が「楔」の字をふっと見た時に、何かに反応するかのように紅蓮を灯り…蛍のように輝いているように見えた。

千鶴は、夜の事が心配で心を痛めたが、平助から「会津藩とか所司代の役人、まだ来てなかったか?」と聞かれれば小さく頷き、平助に返答する。

(…っ、…!)
風間につけられた首輪が、燃えるように熱く、夜は火傷のような痛みに耐えながら、お役人を待っていたーー。
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