新 選 組 奇 譚

□男は黙って、留守番
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あの長い夜を叩き出した【池田屋事件】以来ーー
千鶴の外出の許可をされる日がだんだんと増え始めていった。

どうやら土方が、池田屋事件での千鶴の働きを認めてくれたようで、千鶴としては外に出られる機会が増えたことは素直に嬉しく思うのだが、ただ1人、夜は何となく面白くなさそうだった。

仕舞いには「あんたは何もできねーんだから、黙って部屋に居りゃいいのに、」なんて言われてしまい、おまけに「土方さんも新八に劣らねーくらい女に甘えんじゃねーの、」と放たれる始末に、千鶴は肩を落としていた。

(私が、何も出来ない事は解ってるけど…)
夜に言われた言葉を思い返し、しゅん…と肩を落としていると、一緒に居た原田から「どうした?」声を掛けられる。

今日の巡察は、原田の十番組と一緒に供にしており、千鶴は、ハッと慌てて我に返った。

(駄目、駄目!今は大事な巡察!)
千鶴は気持ちを入れ替え、前から気になっていた話題を原田に振る。
内容は、新選組の巡察の活動の事で、原田は千鶴の振った話題を嫌な顔せずに答えたのだった。

「辻斬りや追い剥ぎはもちろん、食い逃げも捕まえるし、喧嘩も止める。」
まー、ピンキリだ、なんて原田が後に続けて答えれば、千鶴は意外と新選組は地味な仕事もしているのだな、と唖然してしまう。

そんな事を話してるうちに、別の場所を巡察していた永倉と合流した後、町の様子の話になり、長州の奴らが京に集まってきているから引っ越す町人が多い、との情報を得るのだった。

どうやら池田屋の件で長州を怒らせたようで、確かに仲間から犠牲が出れば、黙っていないのは筋が通る話なのだが。

「対長州か…もしかすると近いうちに、上から出動命令が出るかも知れねぇな」
晴れ舞台かも、なんて言いながら永倉は少し微笑みながら原田と千鶴に語りかけるのであった。



ーー数日後。
「お薬の準備、できました」
千鶴は、お盆に載せている粉末状の薬と熱燗の清酒を運びながら、丁寧な振る舞いをしつつ皆の前に姿を現した。

因みにこの粉薬は、石田散薬と言い、土方の生家で造られているものだ。

「総司と平助と、ついでに夜にも渡してやってくれ。…それから、山南さんにもだ」
土方が静かに千鶴に命令すれば、夜と山南は目を瞬く後、夜は不満そうに口を尖らせ反論する。

山南は、私もですか?と問い、沖田から勧められやっと薬に手を出し口にした。
山南の傷は、ほとんど治りかけているのだが、その腕は思うように動けないままで、もう元通りに治る事はないと、皆も薄々感じているのだった。

「…ついでに悪いけど、薬いらねーよ、」
夜は、俺は何ともない、と言いながら、むー、とした顔で土方を見れば、土方からは「いいから飲め」と、鋭い視線共に返され、夜は渋々、千鶴から薬を受け取る。

「…ちっ、」
薬の苦味が大嫌いな夜は、数秒間、じとーっ…とした目で、石田散薬と睨めっこをしながら、むー、と唸っていた。

「ほら、姫。俺が飲ましてやろうか?」
あーあ、と見かねた原田が粉薬を夜の口に運ぶと、夜は「姫って、きもちわりー呼び方すんな、」と文句を言いつつ、自分の目を瞑り、鼻を抑えながら口をあーん、と開き、清酒を飲む。

「…ぐ、ええっ、」
苦いわ熱いわ酒だわで、夜の苦手連鎖に不愉快に顔を歪めれば、土方からは鼻で笑われ、夜は口を抑えながら、うぷっ、としつつ涙目で彼を睨めば、土方はいつもの表情で、ふいっと顔を反らされてしまうのだった。

「…左之、苦い…、」
んべ、と舌を出す夜に原田は、よしよし、よく飲んだなと頭を撫でられ、金平糖を一つ夜の口に放り込むと、「食わねぇからやるよ。」と言い、さっき千鶴と総司にもやったしな、と原田は続けると、金平糖を包みに入れ、夜の印籠に入れてやれば、つい先程まで不機嫌に頬を膨らませていた夜の機嫌は直っていった。

「総司、後で食おーぜ、」
好きだべ?と投げれば、沖田は柔らかい雰囲気で「はいっ!」と返した。

(…やっぱり、夜さんの印籠って…お菓子入れなんだ…)
千鶴は、いつもは格好良かったり怖かったりする彼が、ふと可愛い場面を見せる事に、胸をドキッとさせた後、ふわりと微笑んだ。
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