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「そんな咋に視線外さんでもええのに」
「!?ごめんなさい…あのね、北くんの目の色の深淵がとても神秘的で…だから、そんなに見つめられると見透かされて吸いこまれそうで…」
「ーーそうか。怖がらせてすまんな」
「違うの…!怖い、とかでは全く無くて」
なまえ特有の御加護で護られている瞳をついジッ…と無表情で覗き込み、なまえの乙女の恥じらい心を理解して無い北も、瞳をパチリ、と数秒重なり合わせた後にスっ…と無言で外して仕舞い、傍から見たら失礼であったなまえも、それでも互いの言い分があった為に最終的には引き分け(?)と云う形で決着を付けた。

「みょうじさんの瞳の輝きは濁りが無くてええなぁ…と、つい魅入ってしまってな」
「いえ!こちらこそ失礼でごめんなさい。…っ、もうっ…言ったそばからまた覗いてるよ?」
今度こそは失礼な対応なぞ堪るものか、でもどの様にこの恥ずかしさから逃れよう?と頭の中でぐるぐる…と思考し辿り着いたなまえの答えは、混じり合う視線の位置は変えずに目をきゅっ、と瞑る事だった。傍から見れば北にキスをせがむシチュエーションに似て仕舞った事は本人は理解して居らず、北は少々胸を高鳴らせるが、直ちにある一定の距離を取りなまえに声掛けをし宥め制止、ミスター隙なしの本領発揮であった。ーーこれが今の北の立ち位置があの双子だった場合、若しかしたら尻尾振って桜桃の唇は問答無用で奪われて居たのかもしれないが、北の場合、唇を含めて彼女を本気で奪いに行くのならば、もっと立ち回り等全てに於いて上手くやる。ーー勢いなんかは得策では無いから。

「…ふふっ。みょうじさんと俺の互いの持つ目色の深淵を混ぜて丁度よく二人で分けへん?みょうじさんには神秘的を、俺には幻想的を。此処は仲良く半分こや。どうや?」
「? うん!そうだよね。ふふ!北くん詩人だね。胸がほっこりして好きだなぁ…(北くんもそういう非現実的な事を考えたり伝えたりするんだ)」
「ーー(みょうじさんがこの世に存在するんなら天使さんも强間違って無い、神様みたいに居るんかな、って思っただけや)なぁ、後は何を半分こしたい?バァちゃんの望む様に、これからの時間、俺らの将来を共にして二人で分け与え歩んで行くか?」
「〜〜っ、北くん…!?」
「冗談や。俺はみょうじさんの彼氏からみょうじさんを奪うなんてせぇへんよ。…少しでも傷つける事はしとうないもん。ーーまぁ万が一、みょうじさんが嫁に行きそこねた場合は応相談でええか」
「えっ…」
なまえが、ぼふっ、と顔を真っ赤にさせて声を詰まらせ北を見上げれば、微笑みと柔らかな表情を向けられ返される。最後にオマケの"それに虫苦手なおなごには農家は荷が重いで。嫁ぐなら慣れてもらわんと"とキッパリ一言刺された。言葉では"冗談だ"とは言うが目の色が冗談に見えないのは、果たして口巧なのか偶然なのかは北のみぞ知る。

「ーーみょうじさん、腹減っとる?」
「えっ!?なんでわかったの…?」
「腹減った時の治と同じ顔、表情しとるし、それに瞳が物語っとる。偉い素直やな」
「…嘘つけないもん。ふふっ、治くんと同じなのは何だか嬉しいな」
「(そういう無意識なとこ。双子も大変やな)ーーほら、やる」
「?わぁ、お饅頭!嬉しい…!いいの?」
「ええよ。たんとお食べ」
「あのね、ちゃんと半分こして二人で食べよう?」
北の大きな手からなまえの小さな掌にぽふん、と置かれたお饅頭を、なまえは御礼を伝えては懐紙を使って綺麗に半分にして北の手に渡し、いただきます、と喜び仲良く二人で食した。

「ちゃんと、ねぇ…」
「うん?」
「んや、…もきゅもきゅ食ってる姿がほんま子うさぎやなって」
「そうかなぁ…?んんー美味しい…!」
「そうやろ?普段から世話になっとる和菓子店のでな。でも、二人で半分こしたら尚更美味い」
ほんわか和む雰囲気の中で北家御用達の和菓子店の話題でも、話にふんわりと花を咲かせる。なまえが「私も今度そのお店に行って色々な和菓子お買い物したいな」なんて柔らかく返せば「そうか。ほなコッチに来たら案内する。次いでにウチ寄って飯食ってゆっくり…ん、ん?こほん…バァちゃんも喜ぶし」なんて意外にも少々焦った様に返されるのだった。

「素敵な時間をありがとう」
「ーーこちらこそ」
彼の凛とした風格も身の引き締まる思いで強く憧れるけれど、ふとした瞬間のお茶目な返しや柔らかな笑顔の表情の彼と居るのも、なまえにとってはとても心地好かったのだ。
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