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「おやおや?」
目の前に立たれるだけでも彼の影でなまえの身体全体が覆い被さる様であった。ある用事で烏野高校の体育館付近に訪れたなまえと偶然にも鉢合わせし目の前に佇む彼とパチリ、と目が合って、きっと一静くんと同じくらいの身長かな…と脳裏に思い浮かべながらも、目を惹かれる燃える様なバレー部のユニフォーム、そして貫禄を兼ね備えた彼につい身体を強ばらせて仕舞う。其れが彼ーー黒尾鉄朗との”ドーモ、ハジメマシテ”だった。

◇◇◇

「〜〜おおお、おれもっ、なまえさんの愛妻弁当が食べたいです…!」
顔を会わせれば何時だって笑顔を向けては身体中からキラキラを溢れさせ、此方にも元気且つ全てがプラスになる気持ちを分け与えて護ってくれるーーそんな感謝しても尽くせない他校の可愛い後輩が居る。其んな彼からは、いつも温かい優しい言葉や対応、励ましを頂いてばかりであるので、極力はなまえ自身も彼の願いを叶えられるのならば叶えたい、気持ちを込めてお返ししたい、と云う願いがあった。なので私に叶えられる範囲にはなるけれど、私に何かお願い事はある?と問いてみれば、寧ろなまえにとっても嬉しい願い事が返ってくる結果と成るのだ。特に強調して発言されて投げ掛けられた”愛妻”と云うキーワードに頭上に”?”を浮かべながらも、取り敢えず声には出さず”私の作ったお弁当でいいの?”と彼との通話の為にスマホ越しで問えば、通話であっても伝わって来る声のトーンや歓喜あまって震える声からして、彼のとても喜ぶ姿が目に浮かぶ様だった。

「〜〜なまえさんの手作りが良いんです!あの…その…その日、バレーも強くて…んで、おれにとっても思入れが強い学校との合同練習なんです。だ、だからその…願いが叶うなら、愛妻弁当食って浸りたいというか、あ、あはは…よ、宜しくお願いします!」
嬉しいな。自身の拵えたお弁当なんかで彼が喜んでくれるなら…とふたつ返事で答え、必要な日程と大体の時間、アレルギーの有無、そして場所を問えば、丁度良くなまえ自身の日程も空いていた為、希望するお届け先の場所であった烏野高校付近にあるみょうじ系列で経営している施設に相談しスペースを臨時で借りて、気合いと感謝をたっぷり込めた弁当を作る事にした。そうすれば食べ盛りの彼の事を考えて食事の量だって多めに作れるし、プラスアルファの差し入れ(他部員の為のおにぎりや軽食、水分、栄養補給食費等)だって学校前まで送迎車で来れば良い。何より一番気になるお弁当の衛生面も全く心配無い。

「あの、お言葉に甘えちゃって良いんですか?すみません…!なんか結局、ご迷惑お掛けしちゃって…メシ作ってしかも学校まで届けてくれるなんて…大変ですよね?」
「ううん、いいの。寧ろ私がしたいの。それに気合い入れたい大切な日に私のお弁当食べたいって言ってくれて凄く嬉しい…。翔ちゃんは気にしないで部活頑張ってね?私、お弁当頑張って作るから楽しみにしててね!」
「〜〜ッ!?なまえさんっ…!(愛してますっ…!)」

ーーー
ーー


「はじめまして!あのっ…私、青葉城西高校の者です!烏野高校には許可を得てお邪魔しております。この度は男子バレー部の御方に用があって参りました」
「(青葉城西…?)あらまァ、御丁寧にドーモ。…いやね、今、ボク達も男子バレー部の合同練習で体育館オジャマしてましてね。あぁ、それで(こんな可愛い子が)あんな烏合の衆のドレに御用デスカネ?このボクを差し置いちゃうナマイキな烏の首根っこ今スグ咥えてきますネ」
言動とは裏腹に表情は和やかな黒尾に対して、なまえは自身の首から提げていた入館許可証をぷるぷる震えながら差し出す様に見せれば、ほほぅ…と目を細め口角を上げながら片手をパキポキ、としちゃう高身長の黒尾であったが(すぐ後には)完璧な営業スマイルで”ハハッ、コチラは決してアヤシイモノでは御座いません”な対応を自然と流れる様に行うのだ。そんな彼の軽やかな一面の流れを見ては、初対面の相手でも滑らかに対応を熟す所を見習えたらな、と(なまえが将来の目指す職業柄的にも)純粋に思った。

「私は皆様の邪魔にならないように隅の方で待ってますので、休憩になりお手隙の際に、翔…日向くんをこっそりと呼んで頂けたら…」
「ーーあら、まさかのチビちゃん御指名とは。ツッキーじゃなくて?」
彼女は青葉城西高校から来たと言って居り、且つ真っ白なブレザーが特徴の学生制服で訪れたのだから(姿見も)学生で間違い無いだろう。故に、自身は高3なんだから彼女に対してフランクに話しても問題無いでしょ、と黒尾は口調を普段の様にサラりと戻しなまえに問う。そんな黒尾にジッ…と瞳を覗かれるなまえは、重たい飲料類やその他大まかな差し入れは既に校内に既に搬入・武田に報告済みであるが、自身が気持ちを込めて懸命に拵えた(愛妻)弁当だけは日向に直接、手渡ししたい考えにあったので弁当箱を抱え大切に握り締めながら目線を重なり合わせる。

「ーーええ、彼にはいつもお世話になっており今日はその御礼を兼ねてお弁当を作って届けに来たんです」
「へぇ…あのチビちゃんが女の子にねぇ。ウチの2年坊主と同じ様に女の子耐性弱い方のかと思ったんだけど、まさかのお嬢さんみたいな子と親しいなんてチビちゃんもなかなか隅に置けないね」
待つのは全然平気ですから、お手数をお掛けしますがみょうじが来たと日向くんに伝達を宜しくお願いします。と丁寧に紡げば、黒尾は意外だ、と更に付け足しては驚いた表情でなまえの顔を(良識的の範囲内で)僅かに距離を詰めて覗き込むと同時に、うーん、めちゃくちゃ可愛いわこの子。彼女くらいになれば所謂、一目惚れ、って奴も生じるのだろうな、とか周囲の雄共はきっと放っておかないんだろうよ、と不躾な事を思考して仕舞うのだ。ーーまァ別に、だからと言って簡単に捕食出来そうな耳が垂れた子うさぎを、この僅かな時間で流れに任せて甘く噛み付いたり軽く爪を立てる、唾を付ける等の猫の気紛れ的な意味合いの目的では無論決して無いが、然しながら此の儘、了解。伝達しとくね〜はいではサヨナラ、では味気なく少々寂しい気もして、何だかついつい彼女を構って仕舞いたくなったのは嘘じゃない。ーー然しこの子、あのチビちゃんの彼女なのか?ちょっぴり悔しい。それならばナチュラル野生児日向じゃ無くてイケメン枠月島の彼女なら悔しく無いのか?と問われても、いや…そういう訳でも無い。とにかく!誰であろうが!あの烏合の衆何れかの彼女だったらすっげー羨まし…じゃなくて、ズル…いやいや、あれだ、そうだ、俺を差し置いて奴らに彼女なんてモンは100年早ぇンだよつー事デスカネ!

「あの…御無礼をお許しください、と先に申しておきますので、ご了承ください。」
「うん?」
「…っ、貴方みたいに日本人男性の平均身長より高ければ必然的にそう見えちゃうんです…!」
「ん、んん?何…急にどうした?」
「チビちゃんって誰の事ですか?話の流れからすると…翔ちゃんの事ですか…?」
「え、あ、あぁ、まぁ…ソウデスネ」
「そうですか…。貴方も翔ちゃんの事をそういう風に呼ぶんですね。…私が口を挟む事では無いとか、翔ちゃん贔屓は良くない等と叱られても言わせて貰いますが…もし、翔ちゃんがそんな風に呼ばないで、と言ったならばその際には一切呼ばないでくださいね」
「お嬢さんや、チビちゃんの呼び方呼び方。ーーふむ、貴方も、と来ましたか」
「〜〜っ!?…ぅぅっ…はい!貴方も、です!」
黒尾からしてみたらまさかの意外な展開であり正直言えば驚いた。(あざとく期待してた訳では無いが)少女漫画の様にあわよくば自身に対してときめかれ連絡先を聞かれる訳でも無い、かと言って嫌がって身体を押し退けられる訳でも無い。そんな彼女がした事は、自身よりも随分と身長差がある野郎相手に立ち向かい、ぎゅっ、と華奢な指を握りしめながらも硝子飴の様な瞳で見上げては、彼女自身の事の様に他人の事を思い意見を宛てる事だった。ーーナルホドね。唯の、か弱いひくひく耳垂れ子うさぎちゃんじゃ無いって事かな?そりゃぁ見た目だけに騙されちゃ駄目だよねー?ウチの”背骨”で”脳”で”心臓”もソレの類で侮れないンだから。

「(この人もなの?もうっ…!)」
一方のなまえは、普段「チビちゃん」と同じ様に日向を呼ぶまた別の相手を黒尾に重ね合わせては、普段から相手に注意する事と全くもって同じ事を黒尾に伝えるのだ。日向はなまえ自身にとって、可愛くて大切な後輩であると気持ちが強く溢れさせるからこそ、黒尾とは初対面ではあったがキチンと伝えなくてはならないと思った。

「ーーへぇ?青葉城西のお嬢さんと、その又背後には日向を知る人物、と。…それなら先ずは折角、チビちゃん経由でこうして俺らも御縁があって繋がったんだし出会いを喜びましょうよ。子うさぎちゃんも背後の人物も、チビちゃんとはバレーボール関連で出会ったのかな?わーい、凄くキョーミ出てきちゃったなー?」
「あのっ…話をはぐらかさないでください!それに…私…っ、子うさぎって名前じゃありません…」
まぁまぁそんな怒らないでスマイルスマイル、と優しく宥める言葉を発しながらニコッ、とした笑顔と綺麗な歯を見せ口角を上げては、なまえに向けた瞬間、遠くから叫びにも似た声そして声主である翔んできた陽だまりは、勢い良くあちこちに感と情がガンガンとブチ当たり、子うさぎちゃんの本来の可愛い名前が反響し、黒尾の聴覚に思い切り突き刺さるのだ。
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