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「ッあ"〜!サムこんな所におったんか!探したーーっ…と」
部活はよ行かんと喧しい先輩らにドヤされるやんけ何しとんじゃアイツ俺らまだ入学入部してそんなん経ってないんやぞ、とブツブツ文句を言いながら、自身の片割れを探しに思い当たる場所へと足を急がせ昇降口へ向かう途中の階段をバタバタ、と駆け降りれば、偶然か必然かは分からないが此処でお目当てであった見慣れた背中をやっと視界に捉える。つい安堵と怒りを混じえたクソデカい声を片割れ…治に放てば、其の声主である侑の声が耳に突き刺さり嫌気も差しゲンナリした溜息と表情と共に振り返る自身と同じ顔は「…うっさいわ」との言葉と共に不機嫌にヌルり、と睨み返してきた。

此方のターンでは、はァん?と顬がピキリ、と動く。
コチトラオノレが先輩にドヤされない様にと思って態々探しに来て呼びに来てやったのにも拘わらず"うっさいわ"なんて恩を仇で返す様な言葉を当てられるのであれば、流れに乗ってハイ・ワン・ツー☆で肘打ちを顔面目掛けて食らわす所であったのだがーー侑が治に焦点を合わせながら肘打ち体勢に成る最中では未だ駆け下りた階段の先程の位置からでは治のデカい身体で隠れて見えて居らず、不機嫌になり防御に入る治に或る程度近付いたその地点にて、やっと在る存在に気が付いては、パッ、と戦闘体勢をいとも簡単に解いて仕舞う事になる。次いでに治からの頬抓りで喧嘩売った犠牲は支払った。い、いひゃい。

「宮くん、こ、こんにちは」
ーー何故ならば、治の直ぐ横には小さな生き物もとい見知らぬ女の子が居た様で、治の腕の横当たりからひょこ、と顔を覗き出し恥ずかしそうにしながら挨拶して来たのにヒョッ、と驚いたからである。まァ無茶に当て付けて悪く言えば子奴の所為で肘打ちを打てず逆に自分の頬が抓られた、とでも言っておこうか。

「ドウモ」
治を挟んで女の子が顔をぴょいと出す方へ侑も軽く挨拶しながら彼女の動きに釣られては同じ方向にぴょい、と顔を出し「…誰や?」と不思議に思いながら彼女の顔を更に覗きたく自身の顔を近付けるが、彼女は侑の動きに対して慌てて反対の方へ隠れちらり、と侑を見る。そうなれば侑だって負けん気とプラスされた妙な意地が生じて、彼女を追うように同じ行動を繰り返すので、ぴょいぴょいぴょこぴょこ、と顔だけ追い掛けごっこ(?)が始まった。そんな小学生地味た行為、強いて言えば正直、鬱陶しい遣り取りを況てや此の自身をガッチリとサンドイッチの如く挟み行われている治は、ぐぬぬ、と唸り双方の頭を片手でグワシッと掴み「…ええ加減やめぇや」と二人の動きを制止する。

ーーー
ーー


「みょうじなまえ。…ツム覚えとらんの?中学ん頃、東京からコッチ引っ越してきたやん」
「ーー全く覚えとらん」
何故だか知らんが聞きたい事は積もりに積もってあった。仲良いの?なんて呼んでんの、あの子は何組?とか、きっと大それた事も無い当たり障りの無い質問なんだろうけど、然しながら普段は治の異性関係なんて余り突っ込んで詳しくなんて質問したりしないのに(治に付き合ってる彼女が居ても)それなのに彼女に限って何でや?なんて思われたら嫌だから、その日は一番聞きたかった質問だけして「……ほぉん」で締め括り無理矢理終わらせて寝る準備をした。
ーーみょうじさんとは中学の図書室で出会って、そっから勉強を教えて貰った事が切っ掛けで今となっちゃ大分仲良うなったんだと…なんや、図書室で勉強すんなら俺にもヒトコト言って誘ってくれてもええやんか。

◇◇◇

「治くん、おはよう。良かったら…はい、お弁当食べて貰える?」
「おおっ、今日も貰ってもええの?ありがとお〜!フッフ、どんなんやろ?楽しみ」
どうやら高校に入学してから彼女はちょこちょこ治に対して手作り弁当を持って来て渡していたらしい。そんな二人の一面を少し遠くから眺める侑は、そういえば…と治の行動を脳内で振り返る。自身らの母に作って貰った弁当とは他に弁当をもきゅもきゅ食っては"あんま食った事ない味付けなんやけど味濃すぎず美味いんよ"なんて幸せそうに言って居た場面があったのを覚えていた。あぁ、あれはみょうじさんから作って貰った弁当だったか。確かそれ見ながら"何時まで飯食ってんねんいい加減豚るぞ"って言ってやった時があった気がする…なんて脳裏で巡らせるのだ。

「(…女にあんなん燥ぐサム珍しいこっちゃ。アイツら付き合うてるんかな)」
治も侑も女の子からの差し入れなんて当たり前の日常である立場だから、侑にとってはなまえだってついこの間迄はファンの女の子の一人若しくは治の友人の一員ーー要するに治の背景の一部の認識であった。筈なのに、笑う際になまえ自身の口元に寄せる貝殻の様に艶やかなる小さな彼女の爪を眺めながら、一文字と一欠片ずつじんわりと浮かべれば、自身が高校に入学するにあたり染めてから未だ余り時を刻んで居ない髪の毛がキラキラ…と砂浜を蒙る春の暖かい風に揺れたのが分かった、と同時に目の前が薄らと靄がかかった様な感覚に襲われる。侑自身でも何故だか湧き出て混濁する感情に全く理解が出来ず思考と心理が着いていかないのだが10個の貝殻の何れかにでも掠り紡ぐのを祈る傍観者である、のは気が付かない振りをしていた。

「…ん、ン?」
侑、オハヨ☆と派手目な女生徒からキャピキャピ声を掛けられ腕を引かれた瞬間に現実にグッと引き戻され、今の謎めいた瞬の間は一体何だったのだ、と表情に現すのだ。治となまえの間柄なんか自身にとっては全く関係無いのだから今迄通りに全く気にせず背景の一部として彼女とは付き合えば良い、と再度目の前の現実に目を向け、絡んで来る女生徒と共に賑やかな教室に足を進めるのだ。
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