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(⚠︎制服等捏造)(⚠︎宮実家住み設定)

なまえとのあの一幕が常に頭にこびり付きながらもどうにか授業やら部活やらを終え自宅に帰宅した侑は、クローゼット内から自身が着ていた野狐の制服を見つけては、ポーチからボタンを再度拝借し(みょうじさんごめんなさい)あぁやっぱり制服ボタンで間違い無い、とつい確認してはピンとした悟りと共に不意に落ち、一本の糸を解くまでに至った。と同時にどのような形であれオカンに言ってさっさと制服処分しようと決めた。

「ーーっは、みょうじさんもコレん為に必死に男に媚びたんかな」
彼女は案外積極的なんか、それとも片思い野郎に押し付けられ断れ無かったか、いや将又…なんて思い付く限りのパターンを妄想してはなまえを想い目を薄らと閉じたのだが、自身の掌で冷たく転がる第二ボタンの感触に再度意識すれば、侑自身のあの日の経験した卒業式の出来事や思い出や記憶が嫌でも瞬時に蘇る。

侑にとってあの日は苦虫を噛み潰したような日に近い。第二ボタンのみならず制服の至る全てのボタンを鼻息遣い荒い女子共に隙あらば狙われ気の休まらない大変な一日だった。何故、どーでもいいオンナに態々渡さなきゃいけないのか、と納得いかずに逃げに逃げる最中、それでも中にはボタンを引き千切ろうとするツワモノまで存在し居た。俺の制服ボタンは戦利品か?媚びられる方がマシなのか?いやでも…なんてモンモン思い出すだけで軽く顬がピキリとしながら更に中々忘れたくても忘れられない思い出化し、あんの喧し猛獣共が、と舌打ちと共に小さく無意識に‬呟く。ーー正直そんなサバイバルな思い出なんかいらんねん…!

野狐中の学生服ボタンは男子のみ使用され尚且つ第一、第二、第三…と個々によりデザインが若干異なって居て、つまりはなまえが大切にポーチに閉って持っていたボタンの正体は何れかの男子生徒から貰った第二ボタンである、と結論に結び付くのだ。その際の侑の心情は今まで味わった事の無い感が著しく生じては、ギュッ…と第二ボタンを握り締め、此の儘ーーなんて、人としてしてはならない事柄であろう物騒な鋭利が自身の理性よりも先に脳裏へと牙がギロリとつらりつらりと連なるのだ。その内、結果としては人の道から外れる事を遮ってくれたのだから本来であれば感謝しなければ成らない音、自身らの部屋へ向かう為の階段を登る足音が聞こえては、ハッ、と早急に我に帰り第二ボタンをポーチに閉まいポーチごと自身のデスクの引き出しの中に隠した。

「およ、まだ着替えて無かったんか」
「〜〜っ、ノックせぇや!」
「あ?俺の部屋でもあるやろうが。退けや」
ガチャリ、とドアを開けて自室に入る治と急にゴングが鳴った軽い小競り合いと遣り取りを交わした後、侑は先ずは一旦呼吸を整え此処は自然に、決して相手に怪しまれないように!を心掛けては「ーーなぁ、サム」と一声を放ち、治に対してある問い掛けをするのだ。

◇◇◇

「(…っ、どうしよう…見つからない…先生からも落し物の連絡も無いし…どうしよう…!私のバカ…!)」
ポーチを落としてから落し物連絡してから一晩が経ち昨日から現在に於いてずっとソワソワソワ、と気持ちも動きも落ち着かず、なまえの表情はまさに下り坂であり降水するギリギリ前の雲行きなるもので、瞳には薄らと膜が張る。気を抜けば雨が降りそうだ。
実はあの後、なまえがポーチ類を落としたのに気がついたのは侑が資料室を離れてから差程時間が経って居ない頃合であり、探しに急いで資料室に足を向け辿ってきた道に丁寧に探し戻ってる間に、残念ながら双方は見事に擦れ違って居た。

「どないしたん?ハラでも痛いんか?」
目の前に治が居て二人きりであっても其れは変わらなかった。眉を下げては自分の事のように心配する治の優しさに、胸がきゅぅん、と深く満たされながら「…ううん、なんでもないよ」と小さく顔を横に振るのだ。

「…えっと実は、お菓子食べてる時に間違えて(口内)噛んじゃって、此の儘だと口内炎になりそう…あ、あはは…」
「それはオキノドクに」
「それで、あの、気持ちが沈んでる、のはあったり…」
「大事にな。見たろか?薬塗ったるよ」
「え!?いえいえ結構です」
「そ?ーーまァ他に何かあればすぐ俺に言いや」
「あ、う、うん…ありがとう」
「なまえにはコッチでの生活も楽しんで欲しいもん。東京の方がええ、帰りたい、とか言われたら嫌や」
なまえが治の視線に耐えられず放った口内炎の件は口からの出任せや嘘では無い。それでもまさかの引き合いに口内炎か、となまえ自身も時間差でぽぽぽ、と赤面し恥ずかしくなる。
それでも治がなまえに対して確実に何かあったんだろう、と確信からの圧は強かったのは正直言うと一理ある今は、治としては余り彼女に追求せず(無意識に彼女に対してジト目→口内炎の流れ)様子見から入り力になれる事は介入してでも上手く解決してやろう、と脳裏に張り巡らさせながら、自身の鞄の中に入っていた未だ新しい専用塗り薬を赤面しながらひんひん恥ずかしがるなまえに手渡す。…?そんな恥ずかしがる事か?誰だろうが生きてりゃガブリ、とやるわ。薬も痛いんなら塗るのなんか当たり前やし。御年頃の女の子はアンテナ張り巡らして気遣わんといけんから大変やなぁ、そう云えば様子が何時もと異なる人物が他にも…と、あれよあれよと流れに乗って昨晩から自身の片割れの(普段と比べれば彼らしくない)問い掛けから始まった多数の言動行動を思い出し最終的には、まぁ神経図太いアレの事なんざメシとバレーとゲームとエロ本与えときゃスグにポンコツから立ち直るだろうし別にええケド、なんて振り返り自己解決、掻き消すのだ。

「私、あの…ね、いつも治くんに迷惑掛けてない…?」
「ーー何それ。まさか誰かにナメた事言われたんか?誰や言うた奴名前言うてみ」
「ち、違うよ!そうじゃないよ…っ、ごめん」
「…………」
「あの、本当に深い意味なんか無くて…」
「ーーほんなら、もっとええんよ」
「え?」
「その迷惑っての、俺が引き受けたるよ」
言葉の選択を選ぶなまえを身長差の理由で見下ろしていた視線を、フゥ、と小さな吐く息の心音との一呼吸の後、互いの視線が混じる様に治が屈んでなまえへと顔を覗かせれば、俺がええって言うてんのなら誰も文句無いやん?要は黙ってろボケカスってワケじゃ、ほい解決、と言いながらふわり、と優しく微笑んだ。

「治くんは、いつでも優しいね…」
「おん」
トク、トク、トクンーーと高鳴る鼓動を無理矢理無視して、それでもなまえはきちんと頭と心で理解しておかなければ成らない、と云う太い一線がある。故に其れは"治とは紛れも無い友人の一人"である、という現実である事だった。
いや寧ろ自身に対して妹の様な存在であるのだ、と彼は抱き思っているのだろうから。

「別にトクベツな事や無い」
その温かくて柔らかい一言がなまえにとって鋭利な氷柱の如くなモノであったかは(致し方無いが)治は解って居ない。へら、と自然を装い作り笑いをしたら口内炎に成りそうな箇所がピリピリピリ…と痛くなった。
ーーだから今回の事だって、口が裂けても貴方に言えるわけが無いんだよ。ごめんなさい、治くん。
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