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確かにツッコまれりゃ質問自体別に大した事では無いし"彼女は中学ン頃からの仲良い友人だ"と一言言えば終いだと自身でも理解しているのに、何故だかなまえと俺の関係を赤の他人のある観念より見定められ問われ口挟まれる事は例え僅かでも掠める程度のモノでも疎ましい、と言うのが正解だった。况てや彼女を使って「あぁ、そういえば」なんて当たり障り無く自身との会話を始める切っ掛けにされる、若しくは彼女の事を想い頬を染められ語られるのは無性に腹が立ち、そうなれば必然と此方としてもピリリと辛い対応に変わる。要するに轟く雰囲気や揺らめく狐火で警告を発し其れでも脳ミソに御花畑咲いてる奴は唯のポンコツクソボケであるのだ。
まァ、回り諄いのは捨てて簡単な話が今現在この"人に優しく生きるんや"な俺がこんなン不愉快なンのは100%オノレが要因じゃ黙ってろゴラ。

「いや、アレだよ。進学科のみょうじさんって可愛いって有名で「なまえと俺はそんなんやない、家族みたいなモンや。…もうその話題には触れんな。ええな?」へ、あ、あぁ…」
鼻の下伸ばしながら(問い掛けの意味合いや話の流れからすれば目の前の此奴はなまえに完璧ほの字だから自身に探りを入れてるのモロバレ)話し掛けてくる男子生徒を牽制を込めてゆらり、と揺らめく青灰の視線を合わせ流せば、男子生徒はビクッと肩を揺らし我に返り「は、はは…」と苦笑いしながら冷や汗をタラりと垂らしては荷物を纒ては目の前からすぐ様立ち去る準備をしていた。
ーー人間と云うのは(いや俺が未だケツが青いだけか?)怒りの感情なる厄介なモンは平常に張るアンテナをシャットアウトさせる弊害をも生じさせて仕舞うのだから厄介この上無い。そんな延長上では同時刻には悪くも頃合良く、居座る教室内の壁を挟んだ廊下ではパタパタパタ…と小さな足音が響いて居たのにも拘わらず、俺は其れに気が付かなかったのだから。

ーーー
ーー


「ーーほれみてみぃ。"仲良しこよし"なんぞあるわけ無かろうが」
「!?ぐす…っ、〜〜宮く…なんで…っ」
「おっと、俺はみょうじさんから感謝される立場やで?先ずはハイ、ドウゾ」
「そ、それ…私のポーチ!」
なまえ自身が必死になって探していたポーチは何と侑から差し出されては返って来た。"なんで宮くんが?""何処に落ちてたの?"なんて問う以前に、なまえは早急にポーチの中身を確認しては無傷にコロン、とキラキラと反射させながら小さく泳ぐ第二ボタンの無事を確認すれば、強い安堵からか既に蕩みが纏わりつく白湯の如く濡れる大きな瞳から更に大粒の涙をぽたぽたぽた…っと溢れさせポーチと制服を濡らした。窓から調和となる夕陽が反射しキラキラと橙が差し込む廊下の人目が付かない二人きりの此の場所には、漸く甘くて淡い可憐な蛍が連なり舞う如く雨が降る。其れは侑にとっては何処か懐かしく"狐の嫁入り"を連想させ、一瞬、呼吸の仕方を忘れる程に綺麗だった。

「…ふ、っ、ぐすっ…ぅ…よかったぁ…みや、く…ありがとぉ」
ふるふる、と小さな身体を震えさせながら大切そうにポーチを胸にきゅっ、と押える姿、そして彼女が必死に護りながらも涙を溢れさせる意味深な表情に、侑はズキンとした鋭利な痛みとキュンとした淡い高鳴りに同時に襲われ複雑なる情を味わう事になるのだ。又しても先日に味わったばかりであった拒否したい脅威に似て非なるモノから誤魔化し逃れたくて、心臓が真下に隠れている自身の胸元に手をやりギュッ、と服を掴む事に成った。あぁ、彼女には最低限関わらないと決めた筈なのにーー勿論、今回も意図的にでは無いにしても、自身を振り回すなんて中々される事でも無く敗北を味わうのでは無いのか?と自身がつまらなく褪せる為故に勘弁して欲しいが反面、彼女を如何にかして複雑な罠から救いたいーー等と、侑自身にとっても知り得なかった淡い情が心内の天秤でガタン、と物音を強く鳴らし有意に勝るのだった。

「…言わんの?」
「…え…?」
「みょうじさんの気持ち。サムに言わんの?」
「えっ…な、何の事だか分からないよ…」
「ーーほぉん。さっきのサムの言葉聞いて耐え切れず逃げて、ぐしゃぐしゃな顔しながらアンタは此処に居るけども。偶居合わせて追っかけて来た俺でも誤魔化せると?」
「!?み、宮くん…っ、あ…あのね…!」
「…………」
「…っ、ぁ……い、いいの。私の片想いだって事はもう中学の頃からずっと分かってた事だから。それに今日みたいな事は日常茶飯事なの。ふふっ、私ね、何度も何度も、ああいう形で振られ続けてるんだよ」
「ーーポーチん中の第二ボタンもサムのやろ?」
「〜〜っ、ポーチの中を勝手に見たの!?」
「はァ?勝手には見とらんわ!落ちた衝撃かなんかは知らんが散らばっとったから拾って閉まった時に仕方なく…ッ、いや、サムのボタンって知ったのは、それは、アレや、成り行きで…」
「あっ…そ、そっか…ご、ごめんなさい…」
あぁ、やっぱりか、予感的中しよった。窓から射す橙の光は一本また其の一本と抜かりなく綺麗な彼女の艷めく髪の毛にキラキラ…と反射し、僅かに頬に触れた艶めきを耳に掛けながら必死に涙を誤魔化す仕草を情景にしつつ、脳裏に一文字ずつ"あ"から"た"までの平仮名を順番に浮かべた。
先日、侑が治から引き出し問うた話と有様な現状を組み合わせて引き起こし反映させればパチリ、パチリと一枚のパズルが完成して行く如く綺麗に嵌り軈ては完成に近付けば近付いただけ、焼け焦げる様な胸焼けに蝕まれる錯覚にジワジワと苛立ち、術や手立てが正当法では暴けないのは癪である。

"「ーー制服の第二ボタン?」
「俺は喧し猛獣共から死守した言うたろ?…サムはどうしたんやろかって。んや、別に深い意味は…」
「?なんなん今更ーー……あ、確かなまえに預けたな。ギャーギャー騒がれて俺のメシ邪魔されんの堪忍ならんしほんならなまえが持っとる方が一番平和やし頼んだらなまえもニコニコしよったし。…そういやアレからボタンどうなったんやか?」"

「今の関係を壊したくないの。治くんが笑ってくれるだけで、私の傍に居てくれるだけで幸せだから…あっ!あのね、治くんには絶対に言わないでね?私が泣いてた事も…治くんに片想いしてる事も…ね、約束だからね?」
「ピーピー泣く程ボタン大事にしよるのに、また何かの切っ掛けで傷付きよったら影で今みたいにメソメソ泣いて、でもサムとは友人やからって逃げては今と同じ事ーー…"たくさんの昨日"を繰り返すんか?アンタほんまにそれでええの?」
「ーーねぇ、もう言わないで?もうこの話は終わり…ぐしゅ…ごめ、すぐ涙止めるから…少しまってて…」
「〜〜ッ、"昨日"は消化せぇよ!そんなん守って何になるんや。結局アンタは毎回、今日をなんもしてへんのや!」
「〜〜っ!?…何で貴方にそんな事言われなくちゃならないの?振られるの分かってるのに告白なんかしたら…っ、この今の唯一の大切な関係だって壊れちゃうでしょ!?私には選択肢や今日何かをするなんてない!望まれた役割を笑顔で演じる事しか出来ないの!大体、宮くんには関係無いんだから無責任な事言わないで!」
関係無い、無責任、と云う重なる言葉にザワ、と脳天から足の爪先まで刺激が迸る迄は記憶にあった。彼女の言葉は後最もであり況てや他人事に首突っ込んで感情的になるなんて自分自身でも如何かしていると呆れるし強いては普段ならば反吐が出るだろうに、と平衡に意識を歩んで居た筈が、終いには自我が瞬に失って次に我に返った際は、小さな彼女の身体を引き寄せ強く抱き締めていた。

「ーー上等じゃ。顔は一緒なん文句あれへんな?サムの代わりになったる。アンタは気が済むまで好きに使えや」
「何言ってるの…ッ、も、離して…」
「セキニン、俺が引き受けたる」
"「その迷惑っての、俺が引き受けたるよ」"
「もうやめて…そんな勝手な事…!それにこの状況も言ってる意味も分からないから…」
「そうか?淡白で単純やと思うけど」
「ーーねぇ、自分で言ってる意味わかってる?例えば私が宮くんを治くんに見立てて、今すぐ私だけを"好きだ"って言って、って言ったら宮くんは言わなくちゃならないんだよ?云わばこの状況は、単純にそういう解釈をしちゃうから見当違いであれば気をつけた方がーー…」
「ハジマリが丁か半か、なんて構わん。別にトクベツな事や無い」
"「別にトクベツな事や無い」"
発言にしても意識にしても彼に対して失礼この上ないのは承知だが、常に女性から慕われる彼にとっては異性を手のひらで転がすのは意図も簡単なのであろう。尚且つ、女性が喜び懐く慰めや術、巧妙な言葉だってお手の物だとは思う。だから現に今だって身勝手だけど泣きじゃくる自身に対しての彼なりの慰め方、若しくは何処か掴みきれない彼特有なる気紛れから生じた同情なのかもしれない。有り得ないけれど万が一、此方が今日を信じて明日を迎えればきっと「そんなん真に受けてたんか?恥ずかしい女やな」なんて鼻で笑われるのが関の山ーー彼とはそこまで同じ刻を長らく過ごして無いのだから、そう予防線を張り捉えておいた方が自身の為には正解であろう。そうでなければ彼が自身に構う理由が他に見当たらないのだ。

「ーー重たい意味合いの言葉を軽々しく簡単に使ったりしないで。それに宮くんは同じ顔と言いますが顔付きやふとした顔の仕草からして全く違います…なので仰る文句は大いにあります」
「随分、見た目と違って素直やないなぁ。お利口さんは猫被りか?」
そんな最中になまえ自身が恋焦がれる相手との同じ台詞を(全く意味合いは違えど)近日中に況てや同じ顔をする別人の男性から自身宛てに放たれるとは思いも寄らなかった。ーー彼の言う様に顔は同じ。確かに遺伝子の関係上同じだけど、個々なる人格も姿見も目の奥の灯る色合いや揺めき、神秘的なる魂をも全く違うのに何を仰る、なんて頭の隅の何処かでは酷く冷静になりながらも先程の教室での治の発言と焼き付いた烙印を思い浮かべて濡れそぼる瞳をキュッと瞑れば、ポツリ、と小さく紡がれ連なる三文字の狐火の提灯と密着する彼との似て非なる恋焦がれる香りに惹かれ、抗えず逆らえず広い胸とお腹辺りに縋り爪を立てたく成った所為で、神様どうか今だけは許して…と小さく願い溢れ零れる蛍の燈を、じわり、と白いシャツに押し付けては浸透させ想いを焼き焦がすのだった。
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