よろず部屋
□あんな事いいな出来たらいいな
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『ど〇でも〇ア』が手に入った。
「『どこ〇もドア』は30万円だと聞いた事あるわね」
波江の声はいつも冷静だ。
「いやいや。流石に30万では買えなかったよ。けど、まあ、値段は極秘って事で」
「そう」
……本当に何処迄も冷静な女だ。素っ気ないその態度は本心から興味が無いのか、それとも興味はあっても俺の手に関わるのが嫌だからそうしているのかはちょっと判らない。
「さて」
と俺は少しばかり濃い息を吐いて、事務所のリビングにでんと立つ扉を見詰める。しかし、部屋の真ん中に唐突に扉だけが在るってのは思った以上にシュールな光景だった。
「目的は無いけど、面白そうだからって理由で買った場合、やっぱり初使用は嗜好の限りを尽くさないとね」
「………貴方って、趣味から嗜好から生き方から言葉からやる事から成す事から顔から姿から、徹頭徹尾、無駄で出来てるのね」
「波江さん、言葉をオブラートで包むって知ってる?人付き合いの基本だよ?」
「オブラート処か、包装紙で包んで熨斗迄掛けて上げてるじゃない。その熨斗に何て書いてあるか教えて上げましょうか?」
「………慎んでお断りするよ」
大体想像出来るし、仮に想定外の言葉を言われた場合、その方がダメージが深そうだ。
「あら、残念ね」
一欠けらの残念さも感じさせない波江の視線も意識も既にパソコンの画面上だった。まあ、良い。俺の感動は分かち合うもので無くていい。俺だけのものだ。
「さて」
仕切り直して、扉の前に立つ。
ここで思う。皆さんも一度は考えた事が無いだろうか。
『どこで〇ドア』が海底、或いは宇宙空間と繋がったら?……と。
理論的に展開すると、海底と繋がった場合、そこから大量の海水が流れ込み、水圧に因り扉を閉める事は不可能となりこの場所を中心に未曾有の大惨事が発生する。宇宙空間と繋がった場合はこちらの空気が扉の向こうに勢い良く流れ出し、風圧に因って以下同文。
果たしてそのような状況は発生するので在ろうか。或いは、その惨事を回避する為の何らかのストッパーが『ど〇でも〇ア』には付いているのか。
うん、実に。
実に興味が在る処だけど、今この時にそれを試したら、第一被害者は間違い無く俺になってしまうって訳で(そして第二被害者は波江だ)。
取り敢えず、真っ先に試すのは止めておこうか。後で誰かを唆してやらせれば良いのだし。
好奇心は猫を殺すらしいからね。怖いよねぇ?
ならば俺の取るべき行動は一つしか無いだろう。
この世で最も俺の名前を叫ぶ、あの存在に会いに行くのだ。愛?からかい?嫌がらせ?どれも正しい。珍しいものが手に入った。だからそれを使って、シズちゃんに会いに行く。俺のこれからの行動はそれだけだ。
まあ、多少の実験もある訳だけど。
俺は、シズちゃんの処に行くのだ。
シズちゃんの家、ではなくて、シズちゃんの、居る処。
平日の、お昼時を外した昼間の、恐らく仕事中であるシズちゃんの居場所…なんかは、まあ、調べればすぐ判るんだけど、今の俺はそれをしていない、つまり、池袋の何処とも判らない、そんな場所。
もし、行けるものだとしたらその有用性は各々で想像して欲しい。ついでにシズちゃんが今、深海やら宇宙空間に居ない事も祈っておいて欲しい。(←冗談だよ?)
「じゃ、行って来るね、波江さん。あ、ソレ終ったら帰って良いから」
「………部屋の真ん中に在る扉の前に立つ人に、『いってらっしゃい』って言うのがこれ程抵抗あるものだとはね……いってらっしゃい」
何だかんだ言って波江は育ちが良いね。
「行ってきまぁす」
忘れた頃にドアを叩いて、貴方の処にやって行きます〜♪とは、ふっるーいアニソンだ。
「シ・ズ・ちゃあ〜ん!こ〜んにち、………は……あ?」
「あ゛?」
がちゃり。なんて典型的な音を立ててドアは開き、俺は……蒸気に包まれて居た。
「……………嘘ぉ」
「な!?テメ、なん、いきなり!?」
「……シズ繋がり…とか無いでしょ…」
「ああ!?いや、それより手前!何処から入りやがった!?」
「いやいやいや!無いでしょう!?有り得ないでしょ!ベタ過ぎるでしょ!何でシズちゃん、真っ昼間っからお風呂入ってんだよ!?いや、もう、信じられない!!俺帰る!もっかい出直す!!って、何でドア閉まってるの!?そして何で開かない!?鍵とかそんな機能あったの!?初耳だよ!!波江ぇえ!!!!」
「………成る程な。何となく判った」
「い、いや、シズちゃん。これは実験でね」
「『臨也さんのえっち!』…とでも俺は言えばいいのか?」
「いやいやいや!気を使わなくて良いから!いや、その全く隠さないトコ、本当、漢前だね!てか、隠して隠して!湯舟リターンプリーズシズちゃん!!」
「じゃあ、折角だから手前も入って行けよ」
「あ、あ、あ、助けて!×××××〜!!!!」
END.
臨也さんは最後に何て叫んだでしょう?
@シズえもん
Aなみえもん
Bドラ〇もん
さて?
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