よろず部屋
□neverending
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――歩く。
ただ、歩く。
何処に向かうでも無い。そもそもに日向には何処に向かおうと云う意思も無い。
足が動くから、ただ歩く。道が途切れないから歩き続ける。
歩く。
歩きながら、思う。意識に浮かぶ疑問。思い。
――影山は、どうしておれを機体から降ろしたんだろう。
『手前はここで降りろ。後は俺一人で行く』
そう言った影山に、勿論、嫌だと言った。叫んだ。座席にしがみついて全力で抵抗した。…けれど、結局、コックピットから放り出されてしまった。そこにはきっと、影山の力以外の意思も働いていた。――おれは、士魂号に弾かれたんだ。
何で。
何でなんでなんで…!!
大型幻獣の群れに突っ込んで行く機体――士魂号を走って追おうとした日向を羽交い締めにして止めたのは、東峰だったか、それとも田中だっただろうか。
その彼等とも戦闘の混乱の中、いつの間にかはぐれてしまった。
彼等は…烏野小隊の皆は無事に撤退する事が出来ただろうか。
『日向!ちゃんと立って!!歩いて!!』
泣きながら叫ばれた谷地の声が、一番最後に聞いた仲間の声だ。
だから、歩く。
歩くしか出来ない。
何処に続くかも判らない道を、街灯のオレンジが所々照らし出している。電力は未だ生きているらしい。…そうだろう。幻獣は、無意味な破壊など行わない。破壊に意味を見出さない、とも説明された事がある。
幻獣は、ただ人類だけを憎み、人間を狩る事だけにその存在の全てを懸ける。
『何故?』と問う者も居た。けれど、自分は。
自分は、と日向は思う。
疑問を持つより先にその圧倒的な敵意に晒され、恐怖に飲み込まれてしまった。
…夜が、怖かった。友達を嘗ての仲間を奪ったモノが潜む闇が怖かった。
歩く。夜の道を。ただ一人で。
怖かった。けれど。
不思議だよな、影山。
おれ、今、怖くない。
怖くない。……けれど、今、おれ、凄く、寂しいんだ。
まるで胸の真ん中にぽっかりって穴が開いて、哀しみとか悔しさとか色んな感情がそこに吸い込まれて行く感じだ。
ふと、日向は顔を上げる。
大きな双眸に映るのは、白い月を侵食する黒い月。
あの黒い月みたいに真っ黒い穴だ。
手を翳す。黒い月に伸ばすように。
突如として現れたと云う黒い月。
幻獣はあの月からやって来る、と云う話もある。
…手が届くなら。
あんな月、砕いてやるのに。
影山と一緒ならば。
どうして。
おれを置いて行くんだ。
行ってしまったんだよ。
夜は怖くない。けれど、おれはもう、独りでは戦えない。
生きられない。知ってるクセに。
『生きろ』なんて要らない呪い、おれに押し付けて。
酷い奴。馬鹿。バカバカバカ、馬鹿野郎。
おれは何処に向かえば良い?何処に行けばお前が居る?
不意に、鈴の音が日向の耳に届いた。
歪んで美しい、哀しい音色だ。
……山口と。
いつだったか、話した事があった。
『めでたしめでたし』が良いね、と。
それは終わりじゃないお終い。
ずっと、続いてくHAPPY END。
「そうだよな」
って、その時も言った。
「おれも、それが良い…」
言って、手を伸ばす。
何処かでまた一つ、鈴の音が鳴いた。
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