よろず部屋

□無題
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ああ、嫌だ。

興奮した犬みたいな荒い息。汗。生臭い中に鼻を突く刺激臭。本当、精液って臭いよね。嫌だ嫌だ。

「……っ、ぁ……は、はぁ……あっ」

僕の下。噛み殺そうとして、そう出来なくて、つい零れるのは高くて幼さすら感じさせる、声。煩い。ちゃんと抑えなよ。萎えそうになるから。嘘。萎えない。だからこんな事してる。萎えたら止めるのに。止めれるのに。何だよ、性欲って。本当、面倒。嫌だ嫌だ。みっともない。だらしなさ過ぎ。醜い。汚い。

汗が鬱陶しい。目に入って来て、視界を更に悪くする。それは願ったりだけど。そう云えば僕の眼鏡は何処だ?多分、そこら辺りに落ちてるだろう。外したのは僕だったっけ?それとも外れたんだっけ?どっちでも良いケド。

はっきり見えなくとも、全く見えない訳じゃない。僕のナマクラな目は拙い視力でその対象を映す。

明るい髪の色。何で緑掛かった黒髪じゃないの。大きな瞳。虹彩が大き過ぎるよ。ふっくらとした頬。小さい口。ねぇ、ナンで、君の顔はそんなに子供っぽいのかな。もっと、シャープな顔立ちになれないものかな。僕の身体で完全に隠れちゃう位の、小さな体躯。ああ、ヤだ。小学生犯してるみたい。

ねぇ、君さぁ、そんな子供みたいな顔して、やってる事、サイアクだって、自覚ある?

あるよね。

君だって思ってる筈。僕の髪は黒くないし、ストレートでもない。身長だって僕の方が高いし、身体付きは僕の方が細い。声も違う。何もかも違う。目を閉じたって別人でしか無い事は誤魔化せない。

ははは、判ってヤってるって。何コレ。最低。お互いに。

最低。何なんだよ。思春期って?随分と美しい言葉。単なる暴走する性衝動でしょ。持て余して持て余して、今に到る。男って本当にどうしようもない。最低。最悪。

おとなしくマスでも掻いてりゃ良かったって、今では思うよ。それこそ、毎日毎晩、猿みたいに何度でも。朝から帰る迄、僕の隣に居る存在を想って、頭ん中で裸に剥いて何度も犯して右手動かしてりゃ良かったんだ。それだけで我慢してれば良かった。

気付かなけりゃ良かったんだ。

その奥に、熱を抱えた瞳とか。もどかしく切な気に歪む表情とか。それなのに、現状が、今の関係が壊れるのを畏れて、何も言えない、何も変えられない、臆病さだとか。そのクセキスしたいとか触れたいだとか、溢れ出しそうになる衝動だとか。

そんな、自分の中にある、グッチャグチャでドロドロの感情を上手く処理出来ないで溜め息を吐く、同じような存在なんかに、気付かなければ良かった。

いや、気付いたって、それだけにしてれば良かった。

拗れた感情の、吐き出したい衝動の、共犯者として見なければ。

良かったのに。

馬鹿みたい。いや、みたいじゃなくて、馬鹿そのもの。まるで動物。知能の無い獣。

吐き出したくて。気持ち良くて。ただ、それだけを目的に、組み敷いた小さな身体の上で僕はひたすらに腰を振る。ああ、気持ち良い。気持ち悪い。

吐き出したい。

吐き気がする。

「ぁ…あ、あ、あ…っ、く、ふぁ…っ」

もう、抑えるのも無理らしい、真っ赤に染まった幼い顔がだらしない声を上げる。煩い。抱かれる事を望むと、男でもこんな風に快感を得られるもんなの?だったら、無理だろうね。僕の望むものは絶対に手に入らない。

欲しいよ、欲しい。

こんなんじゃなくて。コイツじゃなくて。

もう、直ぐそこにあるラスト目掛けて、より強く、腰を打ち付けた。取り敢えず、ナカの敏感な処を擦りながら。狭いソコ。絞られる。快感。

ねぇ、欲しい。欲しいよ。抱きたい。本当はお前に入れたい。お前を抱きたい。ねえ。抱きたい抱きたい抱きたい。

コイツじゃなくて、お前が――

「………っ、っ!」

「…っ、ぁ…っ…あ!…っげ、や、まぁ……っ」

―――山、口。

鋭いような一瞬の快楽の結果を、僕は薄いゴムの中に吐き出す。吐精とは良く言ったものだ。ゴムの向こうの蠕動が煩わしくも促すのに併せて、緩く腰を揺らして残り全てを。

出して、そして襲い来る脱力感に崩れそうになる身体を、突っ張った二本の腕で支える。

たった一瞬の快感の代償がこの倦怠感だなんて、マジでセックスなんてクソくらえだ。

賢者タイム…ああ、性交後憂鬱って言ったっけ?その訪れを待つ迄も無く、最初からずっと憂鬱だ。罪悪感と嫌悪感で吐きそう。なのに、止められない。自己嫌悪で死にたくなる。きっと、お互いに、そう。

思いながら見下ろした薄ぼやけた彼――日向はその顔を握った片手で隠して荒い息を繰り返してる。泣いてたら面倒だと思ったけれど、その狭い肩も晒された薄い胸部も不自然な振動はしていない。心配はいらないようだ。


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