よろず部屋

□パロパロ
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「イエス!アイ・ソーリー・サー!宜野座中尉殿の裁量に自分はいたく感激しました!狡噛大尉共々今後共是非仲良くさせて頂きたい所存であります!」

敬礼と共に紡がれた台詞に、宜野座は再び頭を抑えたくなる手を意志の力で抑え込んだ。

言葉だけを勘ぐるのなら、新任の上官に取り入ろうとする下官のそれだろうが、この男にはそう云った下卑た部分を感じさせる処が無い。第一に、本気でそうしたいのなら、こんなふざけた口調は使わないだろう。

つまりは、この男――佐々山軍曹は、裏表なしに言葉通り、狡噛共々宜野座と『仲良く』したいと言っているに他ならない。

狡噛の破天荒さと有言実行の、その比類なき行動力に憧れ、心酔する男達は今迄にも沢山居た。大袈裟な表現が許されるなら、それこそ星の数程に。

しかし、男と云うのは兎角プライドと縄張り意識が肥大している生き物であり、相手を認めるのに多少なりとも時間を必要とするものだ。

だから、である。だから、宜野座にしてもこのパターンは初めての事だった。ほぼ初対面に近い状況で、只の副官である自分共々「お友達になりましょう」と言って来た男――しかも下官と云うのは。
これはこの男の特性なのか、それともそれを善とする何かがこの基地にはあるのだろうか。

確かめる必要はある。

「佐々、ぅひゃあっ!!」

「ギノ、俺の上着」

口を開いていた為、咄嗟には殺し切れなかった声に、手遅れを承知で口元を抑え、宜野座は背後から伸し掛かる重みへと厳しい視線を向けた。

後ろから気配を消して近付き、抱き付くその一瞬に首筋へと息を吹き掛けるのはこの男――狡噛の質の悪い癖である。

十年来の友人とは云え、直属の上官を衆目の面前で叱り飛ばす訳にもいかず、目線だけで解放を促すが、あらゆる意味で通常運転の狡噛はそのサインを無視する事に決めたらしい。

宜野座の腰へと手を回し、更に密着度を高くすると肩口に顎を乗せ、その腕に抱えられてる物を確認して、唇に薄い笑みを浮かべる。そして、それから漸く、宜野座の前で直立敬礼を取る男の姿に目線を向けたのだった。

「さっきはありがとう。加勢してくれて助かった。佐々山…軍曹?」

「アイ・サー!及ばすながら少しでもお力になれたのでしたら光栄であります!」

言葉だけを聞けば真面目な下官の物だが、その貌はにやにや笑いを隠しもしていない。

試しているのは明らかだ。

先程宜野座に声を掛けて来た時は、乱闘の興奮も手伝っての軽口であっただろうが、今は違う。この男は狡噛の反応を見ようとしている。

不敬だと、再び彼を叱責する事は簡単だ。いや、寧ろ副官としてそうするべきであろう。だが、と宜野座は思う。判っている。

だが今、自分がしゃしゃり出れば、『副官に名誉を守って貰った者』として、佐々山の中で狡噛は評価を落とすだろう。

判っている。ならば取るべき態度は静観しか無い。

後ろから自分に抱き付いている男に、横目でもう一瞥を送る。狡噛は宜野座を見ないままに横顔に刻んだ笑みを深め、やっとその腕を解いた。離れる動作の途中に一度だけ宜野座の肩を軽く叩く。舌打ちをしたくなるのを宜野座は寸で堪えた。必要無い。

自分を安心させる為の仕草など。

見くびるなと言いたい。いや、後で絶対、言ってやる。

お前は自分の副官が、自分を信用して無いとでも思ってるのか――と。

「ああ、是非共宜しく願いたい。佐々山軍曹」

言いながら狡噛は佐々山に右手を伸ばした。そして続ける。

「改めて自己紹介をさせて貰う。狡噛慎也……………」

「………………」

いつの間にかギャラリーが出来上がっている。ある者は物見高く、ある者は苦虫を噛み潰した表情で成り行きを見守っていた。

その視線が集まる中、不自然に言葉を途切れさせた狡噛は、まず自分の肩へと目線を落とし、それから宜野座へと振り返り、その腕の中を確認し、しかるが後に佐々山へと向き合った。

「大尉だ」

「…………………」

「…………………」

「…………………」

――こいつ、今、自分の階級忘れていやがった…!

その場に居た者全ての心が一つになった瞬間であった。




ここ迄!中途半端で申し訳ありません!!…だけど楽しかった…!


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