よろず部屋

□さよならなんかは言わないで
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「んだぁ?“死んだ時の姿で出て来なくて良かったぁ”みたいなカオして」

「っ、人の思考読むなよ。エスパーかよ、アンタ」

「判り易いんだよ、お前は」

「いや、ぜってー違うと思う…」

肩を落として言いながら縢は考える。

オレを知ってるって、さっきみたいので見たんだろうケド、このヒト、一体何処迄知ってんだ?下手すりゃプライバシー侵害ってヤツ…。

「っ!?」

そしてまた脳の中に割り込む、映像。

どうやら拒否権は発動しないようだ、と判った。

……見たくない訳では決して無い、けれど。

「……結構、もどかしいモンだね、コレ。判ったってナンも出来ゃしねーし」

「まあな。ケド、それがさっさとくたばっちまった奴に対する罰なんじゃねーの?」

「かねぇ?くたばりたくてくたばった訳じゃないんだけどなー。…にしても、オレ、逃亡犯扱いかよ。まあ、あの場所でパーンしちゃったから死体は上がんねーだろーし、しゃーないかって。…けど」

けれど。

「……皆、オレの事、『裏切り者』って思うかな…」

既に死んでしまった身では、望むのも贅沢かも知れない。そう思われるのは仕方の無い事だろう。

それでも、それは嫌だな、と思う…思ってしまう自分を縢は自覚する。

「ばーか」

「あだっ!?」

軽い罵倒と共に、頭を一回平手で叩かれる。大きな掌から繰り出されたそれは、結構、かなり、痛かった。

「アイツ等が、んなマヌケかよ?」

ジンジンと痛む箇所を抑えた縢が、恨みがましい眼を向けた先で、飄々と男…佐々山は言い放つ。その口調。言いながら着崩したスーツの内ポケットから取り出した煙草をくわえる、と云う、気負いの無い動作に、縢は小さく顎を引いた。

…そうだ。判ってる。

そんな奴等じゃない。

「――あ、でも」

「あ?」

だからこそ、に気付いてしまった。

「……朱ちゃん、泣いたり…しないかな…」

自分が死んだと思って…知って、泣かれてしまう位なら、裏切り者でも卑怯者でも、逃亡犯の方が良いかも…とも思う。

全然、良くねーけど。けど。でも。やっぱり。

「…あぁ、あの元気な姉ちゃん」

「元気で、おっかなくて、カッコ良くて、無茶苦茶一生懸命で、すっげぇ可愛い、常守朱ちゃん、だよ。……やっぱ、泣いて欲しくないよなぁ」

心臓、痛くなるし。

ぽそりと呟く縢の前で、煙草に火を着けた佐々山は紫煙を肺迄送り込み、そして吐き出した。

「……惚れてたか?」

「………うん、」

また小さく顎を引く。

「……好き、だったよ」

素直にその言葉が口から滑り落ちたのは、取り繕う必要が無くなった所為か。それとも、佐々山の訊き方がその声が、余りにも優しかった所為だろうか。

「抱きたかったか?」

「や、それは無い」

たかったか?なんて、やっぱり何処迄も知られてんのなー。とか思いつつ、縢はあっさりと手を降って否定を示す。

「ああ゛!?」

「いや、だって。監視官と執行官だし。考えもしなかったって」

瞬時に眉根を思いっ切り寄せた佐々山に、何かとっても侮辱的な言葉を言われそうな気がして、縢は慌ててそう繋げた。

「あー、でも、……そうか…、会えなくなるんだったらキスの一回位………あ〜、やっぱダメか〜、ムリムリ」

「無理かよ、結局」

一人で自問自答して、結局はそこに行き着いてしまう縢に、佐々山は呆れたようにそう呟く。そんな目の前の男をチラリと見て、小さく笑った縢は、「だって」と続けた。


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