よろず部屋

□UNIT
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【家に帰ると家主が時折屍になっています】



「えっと、ただいま、リヴァイさーん?生きてますかー?」

「………」

返事が無い。どうやらただの屍のようだ。

…ってのが昔流行ったって、言ってたのはハンジさんだったかな。

左手に楽譜、右手に雑巾。一体何のダイイングメッセージだ、コレ。そして何故に玄関手前で倒れてるんだろ。出掛けようとしたのかな?…楽譜と雑巾持って。

「リヴァイさんー?」

靴を脱いで、そして揃えてから(家主がこう云う処煩いのだ)、倒れている家主であるリヴァイさんの傍らに膝を付いて、その様子を確認する。

落ち着いて速やかに救急車呼べ、って?……呼んだよ。…この人が倒れて居るのを発見した一番最初の時に、…ね。

そして、後でリヴァイさんにしこたま怒られた。…まあ、リヴァイさんはその前に当直医にやんわりと叱られたらしいけど。

俯せで倒れて居るリヴァイさんは、暫く見ててもピクリとも動かず、一見すると本当に死んだ人みたいだ。

「死んでるみたいだろ…?…これ、本当に眠ってるんだぜ…」

いや、実際に。

某有名野球漫画のパクり台詞を言ってはみたけど、聞く人が居ないボケは何か空しい。

「リヴァイさん、リヴァイさーん、ちょっとだけ眼を覚まして下さーい。このままベッドに運びますか?それとも何か用事があるんですかぁ?」

俺としてはこのまま寝室に運んでしまいたいんだけど、当人の意志を無視して事を進めると、後が怖いのだ、この人は。

「リヴァイさーん?」

「………せぇ…」

もう一度、呼び掛けると、屍リヴァイさんは俯せのまま、呻くような不明瞭な声を聞かせた。

煩いですか。すみません。俺の声、ボイストレーニングのお陰で以前より響くようになってるんです。

「リヴァイさん?」

「……、……、」

「はい、ただいま」

エレンか、お帰り。もごもごとむぐむぐとむにゃむにゃが混ざり合った声をそう解読して、返事をする。ただいまは既に言った、とか、余計な事は言わない。

「………エレ……膝……」

「はい」

幾分明瞭になった呟きに、俺が制服のままその場に正座の形を取ると、小さく床を這ったリヴァイさんは並んだ太腿の上に顔を乗っけて。

「……貸、せ……」

と言うのと同時に、また落ちてしまった。

俺の行動にツッコミは止して欲しい。何と云うかもう、慣れ、ってヤツなのだ。

いつも思うんだけど、寝心地悪くないんだろうか。俺の太腿なんて、そりゃ、リヴァイさんの(何故か)しっかりとした筋肉に比べればその厚みは少ないけれど、その分骨っぽいし、勿論、女の子みたいな柔らかさは皆無だし。女性を連れてくれば…とは絶対に思わないけど、クッションとか枕の方がずっと寝やすいと思う。

けれど、作曲中のリヴァイさんは結構な頻度で俺の太腿(だけじゃないけど。他にも肩とか腹とか背中とか)を枕に使いたがる。理由は、…そう云えば訊いた事無かったな。けれど、何となく、かな?って思う。だって、作曲中のリヴァイさんは、本当、理不尽と感覚の塊だから。

『君はリヴァイの相方と成る訳だし。その人となりも知っておいた方が良い。勿論、その逆も然りだ。リヴァイ、お前はこの子を拾…見出した責任がある』

判るね?そう、リヴァイさん宅での同居を持ち出したエルヴィン社長の言葉は、彼だけには打ち明けてあった俺の事情を考慮してくれたものだとその時は思ったのだが、今にして振り返ると、まんまその意味だったんじゃないかと思う。

まあ、つまり。作曲時のリヴァイさんの奇行を知れ、と。


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