よろず部屋

□海の見える街へと
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ハンジの野郎なんかは、「さっすがリヴァイ!寝た子も泣かす極悪面ー!!」等と爆笑していたが(言っとくが流石に寝た子供迄は泣かさねぇよ)、俺は知って居る。子供が大声で泣くのは守ってくれる存在が近くに居る事を理解しているからだ。誰にも守られない子供は決して泣かない。弱味を見せる事になるからだ。

俺自身が良い例だ。だから判るのは、このクソガキの泣き方は、守って貰えるのを期待する子供のそれじゃ無えって事と。

手拭いを手前で抑えさせて、引いた手で腕を組んで泣き続けるガキを眺める。

曇りの無いでけぇ目から、ただ溢れ出るだけの水滴は、このクソガキを苦しめる為の代物じゃねえって事だ。

――初陣から帰還した直後の、あの時の涙とは違う。

ならば、良い。

またも始まったガキの言葉に、適当に相槌を返しながら、思う。

辛い涙じゃねぇなら、別に構わねえ。

涙も鼻水も、俺に付けねぇなら、幾ら垂れ流そうと構わねえよ。

好きなだけ、泣けるだけ泣いちまえば良い。

………なあ?

エレンよ。



***

求めていた。

けれど、諦めてもいた。

あの壁の中の世界から、このだだっ広い世界に放り込まれたのは自分だけじゃねえかも知れない。だが、今の俺が物心付いた時点でも50億を超えていた世界人口(現在は70億を超えている)。この国だけでも1億2千万人超だ。そんな中で、巡り逢う確率等酷く低い。増してやたった一人となんて、望む事自体が徒労と思えた。

そして俺は、15の年に全ての可能性を諦めた。…諦める事にした。

流石にちょっとやさぐれた。と云っても、地下で一通りの悪事に手を染めていた事や、巨人を殺し捲っていた前に比べればガキの遊び以下のグレ方だ。寧ろ、徒党を組んで暴走や破壊、暴力行為を繰り返す集団を幾つか潰してやったんだから、地元の人間には感謝されても良い位のものだろう。…まあ、んな事ぁ欠片も望んじゃ居ねえが。

そんな風に、オヤには迷惑と心配を掛けたく無えが故に、飽くまで水面下で(だが、まあ、きっと、絶対バレていた)軽い暴力に明け暮れた高校時代を通り過ぎ、やさぐれんのも飽きて無難にそこそこ真面目に大学に通い、さて就活だ。と、受けた最初の一社で、エルヴィンの野郎と再会した。

前から、『腹の底が読めない』だの、『笑顔が笑って無い』だの言われていたが、俺から見たら表情が丸判りの奴だった。

変わってねぇ。だから目が合った瞬間、俺には判った。

あ、コイツ、俺の事覚えてやがる。と。

思わず盛大な舌打ちをしていた。

面接試験の初っ端である。他の面接官が一斉に眉を顰める中で、ヤツだけが肩を震わせて笑いの発作に耐えていた。それを見て確信した。ヤツが俺が知るエルヴィン・スミスまんまの人物だと。

だからまあ、第一印象で落とされて当然の俺がその会社に就職出来たのは、完全なるコネってモンだった。卑怯だと多少は思わないでも無かったが、此処で蹴ったら俺の人相と態度の悪さだ、一体何社落ちる事になるか判らねえ。そう云った事情で目を瞑った。

そしたら、その会社の開発部とやらにハンジの奴迄居やがった。前の記憶の奇行種は、やっぱりここでも奇行種のままだった。

「ぎゃははは!リヴァイだリヴァイだ生リヴァイだよ!!久し振り〜!!相っ変わらず眠そうな極悪面してるんだね〜!!」

等と爆笑しながら、白衣のまま床を転がり出したので、取り敢えず踏み付けて止めてやった。が。

「んで、エレンは?今日は連れて来て無いのかい!?」

の台詞には耐え切れずに、勢い蹴り飛ばしてしまった。



***

「迷ってるんだ?」

「迷ってねぇよ」

明るく軽く問い掛けて来る声に、此方は憮然と返す。

迷ってはいねえ。

『人類の希望』たるクソガキの監視と保護の為に結成された俺の班は、事実上壊滅した。その後一連を得てガキの監視は緩められ、そして、兵士長である俺が全く下を持たねぇ訳には行かないってんで、新たなる部隊が編成される事になった。

『育ててみたい兵士が居るのなら遠慮せずに言いなさい』

エルヴィンの言葉に僅かに逡巡してから俺は、二名の兵士の名を挙げた。

一人は、ミカサ・アッカーマン。

そして今一人の名前は、エレン・イェーガー。

「…ま、エレンの監視体制は完全に解かれた訳じゃないから、リヴァイが何も言わなくとも新部隊に彼は組み込まれたさ。でも、キミはただの監視対象及び一兵員としてでは無く、期待を掛ける隊員としてあの子を…あの子達か、まあ兎も角、扱いたいんだ?」

判り切った事を訊くハンジに無言の返事を返せば、何が可笑しいのか、クソメガネは緩く肩を揺らした。


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