よろず部屋
□俺とホラーとリヴァイさんと仲直り
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――あ…あぁ…!!ひ、ぁ…あ、あ……!!
俺の腕の小さな身体は、その悲鳴毎にビクビクと震え、しがみついて来る力を強くする。
「……リヴァイさん……」
――ひ、ひ…っ!!ぅあ、あ、あぁ…っ!!
エレン、と、俺の名を呼びたいクセに必死に堪え、ただ縋る腕の力を強くする姿に、欲情が煽られない訳が無い。
俺は一度キツく瞑った眼をまた眇め、その熱くなる息を鎮めるように慎重に吐き出す。
「……リヴァイさん…っ」
――ぃ…!!あぁあ!あ…あ…!!ぁあーっっ!!
一際大きく上がる悲鳴。ビクリと揺れた細い腰がより俺へと擦り寄り、彼の纏う香りがより一層脳を痺れさせて、俺はとうとう音を上げた。上げざるを得なかった。
「…ね、リヴァイさん…、…怖いんなら観るの止めましょうよ」
「っ、怖くねぇ!!」
言うだろうと思ってたその台詞に、大きく溜め息を吐いてしまう。
俺の右側にベッタリと張り付き、一度上げさせた右腕は、今はガードさせるようにその身へと覆わさせ、小さな両手は俺のパジャマを引きちぎりそうな勢いで引っ張り、あまつそこに青白い顔を半ば以上埋めさせ、時折にチラチラと画面を伺う。
ここ迄しといて、今現在、流されて居るこの、ホラー映画が怖く無い。と?
「あー、グロいですよね。気分悪くなりません?」
「平気だ」
あー、うん。顔色真っ青な上に、両目にうっすら水の膜張ってるんですけど?
――ひぃあああーーっっ!!!!
「っっ!!!!」
今迄で一番大きな女優の悲鳴が響き渡り、ビクンっとばかりに跳ね上がった身体が再び強くしがみ付いて来た。
目の前の画面を見遣れば、妙なハイテンションで逃げていた女被害者Bが遂に殺戮者に捕まってしまったようだ(因みにAは既に手に掛かって居る)。
ぐしゃりとかぼきりとかびしゃびしゃとか、女被害者Bの断末魔の声とか。そんな音が響く度、俺の身体はリヴァイさんに引き寄せられ、リヴァイさんの身体は俺に擦り付いて来る。
湯上がりほこほこ、シャンプーやら石鹸やらの良い香りを全身から立ち上らせたリヴァイさんの、身体、が!
いや、マジ、ヤバい。ヤバいんです!リヴァイさん!!そんなに体温を俺に教え無いで下さい。小動物のようにぷるぷるしないで下さい!!
あー、駄目!もう駄目!!
内心で悲鳴を上げた俺は、咄嗟に掴んだリモコンで、黒と赤に彩らた画面を強制終了させる。
「あ!テメ、何勝手に止めてるんだよ!?まだ途中だったろうが」
画面なんか半分も見て(見れて)居なかったクセしてそう云う事言いますか。
そう言いたいのをぐっと堪え、手にしたリモコンをリヴァイさんとは反対側――左の方へと遠ざけながら、俺は言った。
「駄目ですって。これ以上観てたら、夜中トイレに行けなくなりますよ?」
途端赤くなる顔は可愛かった。けれどそれは、すぐに凶悪なガン付け貌に取って変わる(斜線入り)。
「寄越せ」
「駄目です」
「寄越せって」
「ちょ、俺を登らないで下さいよ!駄目ですってば!トイレ行けなくなったって、俺、付き合いませんよ!?てか、その場合、放尿プレイかお漏らしプレイの二択コースですからね!?」
「ざけんな!!この変態!!寄越せって!」
取られないように、高く掲げたリモコンへと、リヴァイさんは俺の太腿に膝を乗せ、右手で俺のパジャマの肩口の処を強く引っ張りながら左手を伸ばす。
このままだと本当に俺の肩へと膝を乗せて来そうな勢いだ。止めて下さいよ、アンタ、自分が結構重いって自覚あんでしょうが。つか、尖った膝に全体重乗っかってて、既に太腿痛いんですけど。
大体、この頑なさは何であろうか。怖いのは確かなんだから、俺が「止めましょう」って言ったら安堵を隠しつつ同意をしても良さそうなもの―――って、俺の言い方が拙かったのか。「俺、怖くて観てられません。お願いですから止めましょう」――そう言うべきだった。……後の祭りだ。
いや、だからと言って。
「ラストが気になんだろうが!最後迄観させろよ!」
あそこ迄怯える人間…と云うか、この人に続きを観させる気には更々ならない。
「ラストが気になるんですね?最後は、冒頭にチラリと出て来たヒロインの元カレが殺戮者を倒して彼女を助けます。けど、そもそも殺戮者をけし掛けたのはその元カレなんじゃね?って云う疑いを残してエンドロールです。これで良いですね?」
「な…!?テメ…!ネタばらしすんじゃねーよ!!」
怒りで紅潮させた顔を凶悪に歪めたリヴァイさんは、握っていた俺のパジャマをガクガクと揺さぶる。
ちょっ、止め。パジャマが破れる!いや、それ以上に、脳がっ脳が攪拌される!!
「ちょっ、リヴァ」
「大体コレ観たがってたの手前だろ!?何でラスト知ってるんだよ!?」
ガクガクガクガクガクガクガクガク。
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