よろず部屋

□俺とホラーとリヴァイさんと仲直り
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「俺っ、公開時にっ観に行きましたからっっ」

「誰とだよ!?」

「当時付き合ってた女とっ!!」



×××××

……リヴァイさんを怒らせてしまった。

俺は腫れ上がった左頬を濡れタオルで冷やしながら、深い深い溜め息を吐いた。

俺が悪い。

これはどう考えても俺が悪い。

誰が見たって悪いのは俺だ。悪い奴を指差せって言ったら、皆が俺に人差し指を向けるだろう。100人居れば100人が。1000人居れば1000人共。10000人居れば…止めよう。兎に角、全面的に俺が悪い。

…ああ、下らない考えなんかするんじゃなかった。

ソファーに腰掛けガックリと項垂れた俺は、再び深い溜め息を吐き出していた。



×××××

――あ、コレ。レンタルになってたんだ。

新作でも無いそのタイトルを手に取ったのは、特に何て事は無い、そんな意識からだった。

「…ソレ観たいのか?」

「ぅわ!?ビックリした。いきなり後ろに立たないで下さいよって!いつも言ってるでしょ!」

リヴァイさんはその身長に見合って小回りが利く所為か、はたまた人に埋もれる所為か(どちらも当人には絶対に言わないけれど)、こうやって一緒に外出してお互い用事があって離れたりなんかした時々に、いつの間にか後ろに立ってる事が結構あって、その度に俺は驚かされていた。この時もそうだ。

俺の抗議をいつものようにスルーしたリヴァイさんは、じっとこの手のパッケージを見詰めている。

「手前には珍しいタイトルだな。観てぇのか?」

そう問われて、ひらりと頭の隅を掠めた思考に、「いや別に…」と言い掛けた言葉を飲み込んで。

「良いですか?」

と訊けば、「5枚で千円だからな」と数合わせの了承を示したリヴァイさんは、俺の手からケースだけを抜き取ってレジへと向かった。

その小さな後ろ姿を見ながら俺は、どうしてもにやける口元を掌で覆い隠した。

まあ、つまり。

その掠めた思考ってのは、若者として男として当然ある欲求って云うか。まあ、その。つまりだ。

スケベな事考えました。

ちょっと前に、同じ大学に通う友人…つうか悪友、が言ってたのを、ふと思い出してしまったのだ。

曰わく。

『ホラー観ながらヤるのって、結構燃えた』

血に興奮するのか、恐怖から来る生存本能に火が着くのかは判らねぇけど、兎に角、いつも以上に相手が燃えるんで、吊られてこっちも萌えて燃えちまった。

…と。

それは是非とも試してみたいよな。と思うのは、若気の行ったり来たり(至りだよ、知ってるよ?)で当然の事だと俺は主張する。

そして、潜在一遇のチャンス。この機会を逃す間抜けは、男なら有り得ないだろ。

あのタイトルなら、結構血塗れで、そこそこビビらせシーンは有るけど、適度に面白く無い(余り面白いと二人して画面に集中しちゃう可能性があるから)し、打って付けだと思った。

しかし、俺は気が付くべきだったのだ。

俺の手に在ったパッケージを見た時、僅かにしかめられたリヴァイさんの眉根に。

そのパッケージからケースを引き抜く時に、少しだけ揺れた白い指先に。

何より、借りた5枚の中で、真っ先にそれを観る、と言い出したリヴァイさんの様子に。

俺は気付くべきであったのだろう。



××××

土・日・月(祝日)の三連休。リヴァイさんの休みに合わせて俺もバイトの休みを貰った。

何も用意はしてねぇけど、どっか出掛けるか?

金曜の夜。そう訊いて来たリヴァイさんに、3日間何処にも出掛けないで、思い切りイチャイチャしましょうよ。と言ったのは、俺だった。

社会人になると、或いはバイトとか経験すると判る。土曜日や祝祭日が赤い日じゃない企業や職種って結構多い。リヴァイさんの仕事もご多分に洩れず、だ。勿論、全部が黒で埋められれば労働基準法に抵触する。だからリヴァイさんには代休も年休も与えられている。しかしそれは大概平日だ。そして平日の俺には大学の講義がある。

仕事に忙しいリヴァイさんと、大学とバイトがある俺。一緒に暮らしてても結構ある擦れ違い日々に、リヴァイさんが割と無理をして、暦通りの連休をもぎ取ってくれたのを、俺は知ってるから。

だから、丸々3日、人の目なんか気にしないでリヴァイさんとイチャイチャしたい、と思った。ベタベタしたい。普段の分迄リヴァイさんを充電したい。正直な処をぶっちゃけると、一杯やらしい事がしたい…って、ここ迄打ち明けちゃうとリヴァイさんにプチ家出されそうなんで、心の決意に留めて、そう言った。


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