よろず部屋
□SOS!ヒーロー!!
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「…これでも判んないなら、お前、ひっぱたくよ」
判んない。とは、流石に言えなかった。
だって、俺は判ってしまったから。
僕も同じ。
ツッキーの、その言葉の意味。
……キス、の、その意味。
判って、笑おうとしたのに、俺の目からは涙がボロボロ溢れ出して。
多分、きっと。その時の俺、泣き笑いの相当みっともないカオしてたと思う。
でも、ツッキーは嫌がったり呆れたりなんかせずに、一度撫でた頭を引き寄せてくれて、何度も背中をぽんぽんと軽く叩いてくれた。
「お前はホント、泣き虫だね」
そう言って、また小さく笑った。
「何でお前が言う迄黙ってたかって?だって山口、僕から言ったら何も考えずに頷きそうじゃない」
その後、ツッキーはそう言った。いや、俺、そこ迄ツッキーに脊髄反射かな?否定はしきれないけど。
「そして、後からグダグダ悩むの」
……ああ、それは……うん。
「だから、僕もお前と同じ“好き”だって、最初にちゃんと教えたかったの」
……ハイ。ツッキー、好きです。ツッキーと同じ意味で、俺もツッキーが好きです。
でも、思う。ちょっとだけ思う。その時は判らなくたって、後で疑ったって、ツッキーの言う“好き”の意味を、結局、俺は理解出来たんじゃないかな、って。
だって。
その日以降、毎日、ツッキーには、キス、されている。毎日。(大事な事なので2回言う)
人目を盗んだ軽いものから、人の気配から逃れての、深いもの…腰砕けちゃう位、濃厚なヤツ…迄。ツッキーはそう云う隙を突くのが物凄く上手かった。(流石、クレバーブロッカーだよね!)
「あの…何か、ツッキー…、キ、キス…っ、上手いんだけど…?」
隙を突くのだけじゃなく、キス自体もツッキーは上手い…と思って、訊いてみたのは一昨日の帰り道だ。
だってさ、だって。俺には出来ない。ツッキーの唇が閉じた…或いは薄く開いたタイミングでその口を塞ぐ事も。ツッキーみたく、舌を相手の口に侵入させて、絡めたり舐めたり擽ったり、なんか、全然出来やしない。何か、翻弄されてばかりだった。
まあ俺は、軽いチューもディープなヤツも、ツッキーが初めての全くのビギナーだからと言えるけど、それじゃあ、ツッキーは?ってなる。
出会った小学生の時から今迄、ずっと俺はツッキーにくっ付いて回ってた。だから知ってる。
ツッキーは、女の子達に凄くモテてたし、よく告白なんかもされてたけれど、彼女とか、そう云うの作った事は無い。
「あの娘、可愛いよ?付き合わないの?」醜い嫉妬心を押し隠して、何度かそう訊いた事もあった。その度にツッキーは不機嫌そうに、「面倒」って言い捨てて。俺は「勿体無いなぁ」とか言いながら胸を撫で下ろして、そして、そんな自分に嫌悪感を覚えてた。…あれ?話、ズレた?兎に角、ツッキーだって、誰か――女の子とかと付き合って、経験を積んだって訳じゃない、って事。
そんな意味を込めた俺の言葉に、ツッキーは、何だか、ちょっと読めない表情をした後、此方から目を逸らした。
――あれ、もしかして、訊いちゃいけない事だったのかな……?
「ツッキー?あの」
言いたくないんなら。
そう言おうとした俺を遮るように、その口元を手で覆ったツッキーはくぐもった声を聞かせた。
「……イメージ、トレーニング…」
へ?イメトレ?
そっぽ向いたツッキーの言葉を、俺は一拍遅れて理解する。
「スゴいね、ツッキー!」
「…………は?」
「だって、イメトレだけで、…あ、えと、あ…あんな、その、き…もちい…ぃ、……キス…、出来るようになるなんて!ツッキーってやっぱスゴい!」
途中、小声で。最後は早口になってしまったけれど、俺の感歎は伝わったと思う。ツッキーは本当に凄い。
そしたらツッキーは、気抜けしたような、またちょっと判らないような表情をして、でも、視線は俺に戻って来たから嬉しくて笑ったら、溜め息を吐いて、唐突に切り出された。
「明日から明後日に掛けて、ウチ、オヤ居ないんだけど」
「うん?」
「…泊まりに来る?」
「え!?いいの!?行く行く!お邪魔する!」
やた!ツッキーん家にお泊まりだ!ゲームしようかな、勉強教えて貰おうかな、あ、DVD観るってのもある。そんな事を思い馳せている俺の前で、ツッキーは益々読み取り難いカオになって、小さく首を傾けて、言った。
「あのさ、山口」
「ん?なに?」
「……イミ、判ってる…?」
「へ?…意味…?」
ツッキーん家に遊びに行く意味…?って事…?
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