よろず部屋

□SOS!ヒーロー!!
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「…………………」

ツッキーは黙ったまま俺を見下ろして。俺はちょっとだけ見開いた目でツッキーを見詰めて。ツッキーの頬がうっすらと赤いのを知って。

「………!!」

……イミが判ってしまった。

あぁあ、そうだよな。俺はツッキーが好きで、ツッキーも同じ意味で俺の事、す…好き…、で!毎日キスなんかしちゃってる間柄になったんだから、ご両親が留守の時に『泊まりに来る?』は、その、やっぱり、そう云う意味だよね…!

やっとそこ迄思い至ったら、いきなり顔が熱くなった。

えっと、つまり、ツッキーは、その。

判っちゃったらもう言葉が出て来ない。頬も耳も火照ったように熱い。きっと、俺、今、ツッキーの比じゃない位赤い顔してると思う。急激に血が集まった所為かな、何か、頭もクラクラする。

「……止める?」

ツッキーの静かな問い掛けに、一拍置いてから、俺はブンブンと頭を左右に振った。

「……っ」

「ちょっと!」

元々クラクラしてた頭を思いっ切り振った所為か、軽い眩暈に足がよろけた俺は、ツッキーに片腕を捕られて支えられる。

「お前、時々、ホンっト危なっかしいよ」

「…っ、ゴメ…じゃなくて!」

いつものように謝り掛けて、そうじゃない、と思い直し、ツッキーを見詰め…ようとしたけど、恥ずかしさにすぐに俯いてしまった。でも。それでも。

「ぃ…行く…っ」

ツッキーん家に。お泊まりに。

今度はちゃんとその意味を判ってる、って事は、俺の顔の赤さが証明してるだろう。だから俺はその言葉だけを絞り出した。

「そう」

ツッキーはそれだけ呟くと、俺の腕から手を離した。離れてしまった体温がちょっとだけ淋しい。そんな自分の意識に俺自身が気付くより先に、離れたツッキーの指は俺の顎をくいと掬い上げる。

………やっぱり、ツッキーは上手だ。本当にこんなの、イメトレだけで出来るようになるんだろうか。

「明日の部活終わったら、一旦帰ってからおいで」

俺の足が崩れちゃわない程度のヤツで済ませたツッキーは、意味深な…何か凄く意味ありそうな笑みでそう言うと、「じゃあ、明日」って背を向けた。

俺の家とツッキーの家へと。別れ道になる交差点はまだちょっと先だったけれど、その時の俺はそんな事も、そしてここが、夜とは言え人通りが無いとは言え、往来だったって事も、思い至らなかった。

真っ赤な顔でフラフラ帰って来た息子を心配する母親を何とかいなし、夕飯も風呂もそこそこに部屋に戻った俺は、ベッドの上で苦悶していた。

い…いいいい行くって…!俺、言っちゃったよ…!!いや、いやいや!言って良いんだけど。行くんだけど!でも、俺、ツッキーとそう云う事するの!?しちゃうの!?つか、俺、本当に出来るの!?や、したくないかって言えば、したいけど!!ツッキーと、えっえっエッチな事、したいけれど!出来るの!?俺!?今ですら、こんなに心臓バクバク言ってんのに、ちゃんと出来るの!?本当に!?……自信は無い。滅茶苦茶無い。で、でもでも!ツッキーが誘ってくれたんだし!ツッキーだってやっぱりそう云うの期待してるだろうし。ああ、でも……エンドレス。

…色々考え過ぎて、頭パンクしそうで、もう、俺、今夜は絶対眠れないと思った。

けれど、厳しい練習と健康な肉体とはありがたいもので、いつの間にか意識を消失していた俺が目覚めたのは、次の日――土曜日の朝、だった。



つまりは、昨日の朝。掛かるツッキーの寝息に首を竦めながら、俺は頭を抱えた。

…土曜日。部活中の俺は、ハッキリ言って、ドジの塊だった。

ボール籠を倒す事3回、ポールに激突する事2回。靴紐を踏ん付けて転ぶ事1回。やっと形になって来たジャンプフローターサーブは彼方此方に飛んで、いっそ見事な位一本も決まらず、終いには畳んだネットの端をまたもや踏み付けて、床に顔面ダイブする寸前をツッキーに助けて貰った。…恥ずかし過ぎる。(でも俺を助けてくれたツッキーは死ぬ程格好良かった!)

心配する主将と菅原さんの表情、日向のおっきな瞳がスッゴく心に痛かった。

何か、もう、すみません。本当にすみません、としか言えない。ちらちらと、ついつい伺ったツッキーは、いつも通りの、少し面倒臭そうな態度で練習メニューを淡々とこなしてて、俺ばかりが意識してるようで、余計に恥ずかしかった。

「お前、挙動不審過ぎるでしょ。僕の事もちらちら見過ぎだし」

午後3時過ぎに部活は終了となり、日曜日は体育館が使えない事と、故に部活は休みとなる旨を改めて通達されて、解散した。坂ノ下商店での買い食いの誘いを二人で断って、並んで帰路に着くその途中で、ツッキーにそう言われてしまった。俺は、だって…とか、その、あの、しか言えずに歩く。


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