Blackish Dance

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 トスっと的の中心に矢が射られる。
 五月のある休日、空は文句のない晴天。
 今日は高校の弓道全国大会の決勝戦。丁度今矢を放った少年が優勝を決めた所だった。
 もう何度目の優勝なのだろうか。表彰台の頂上に立つと言うのに表情を変えないままで居る。さも頂上が当たり前であるかのように、そこ以外居場所が無いかのように。

 表彰が終わり仲間の所へ少年が帰って来た。
 その途端仲間から祝福の声があがる。
「やったな秀(ヒデ)! 史上初だぞ! 中学から連続全国大会三連覇!」
「阿清(アズミ)君おめでとう! スゴいね!」
「やっぱり俺たちは敵わないな! お前天才だよ!」
 仲間は口々に称賛の言葉を述べる。そんな普通の風景。
 しかし、彼らを遠巻きに見つめる人影が二つ。これは普通の風景ではなかった。
「阿清秀十五歳。一年生にして弓道部部長。中学二年から弓道の全国公式大会二連覇中、今で三連覇目。大会は出れば優勝“弓道界の麒麟児”。成績優秀、真面目でみんなから慕われる人気者。だけどただ一つ、誰にも言えない秘密が…」
 口元は微かに笑っている。目線は真っ直ぐ祝福されている少年に向かっていた。
「彼こそ僕らの仲間にふさわしい」
 もう一つの人影がぽつりと言った。


「今日が運命の日。だけど、どうか哀しまないで。君は十分頑張った。だから……」

──君の人生を僕らに


 ふと秀が振り向いた。視線を感じたからではない。何かが自分を呼んでいる気がしたからだ。
 二つの人影は、もう何処にも見当たらなかった。
 

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