Blackish Dance

□#0001
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 陽も傾こうかと言う頃、弓道部は電車に乗って帰路についた。駅に着くたび仲間は降りていく。みんな家に帰るのだ。一人、また一人と。
「どうしようかな…」
 最後に一人残った秀は扉にもたれかかりながら考えた。
 カバンの中にはさっき貰ったばかりの賞状やメダルが入っている。しかし大事にする風でもなく適当に詰め込まれていた。秀はこの勝利の証たちをどうするか悩んでいた。
「どうしようかな…」
 心中で同じ言葉を繰り返し呟く。しかし答えは出ない。答えが見当たらない。
 とにかく秀は悩んでいた。
「西都(セイト)、西都。終点です。お忘れ物の無い様、ご注意下さい」
 聞き慣れた車内放送が流れる。
 秀は電車から溢れた人波に押されながら改札を抜けた。
 人がまばらになったところで、携帯で時間を確認する。
 空はまだ薄暗い。
「八時半、か。まだ早いな」
 足は自然と公園に向かっていた。
 公園といっても散歩道や池の有る大きな公園だ。大通りから少し離れたこの公園に人影はなかった。今日は祝日だったが、親子連れや恋人たちで賑わう昼間とは違い閑としている。
 池の前の適当なベンチに腰掛けると、カバンからくっきりシワのついた表彰状やメダルを取り出した。それを手におもむろに立ち上がると池までゆっくりと歩いて行った。
 深く息を吸い込むと、勢いよく賞状を破りだした。表情は、無い。
 修復不可能なぐらいに破られた賞状は、風に吹かれて散り散りに飛んでいった。それを見届けると、今度は力一杯池の中心目掛けてメダルを投げ付けた。
 ポチャン、と波紋が広がり、やがて静寂が戻る。
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