Blackish Dance

□#0006
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 人通りの無い道路沿いを歩いて行くと、少し寂れた町に出た。民家は無く、商業用のビルが建ち並んでいる。どのビルの入口にもきっちりとシャッターが降ろされていて、長い間使われていない様に見えた。
 しばらく行くと、前を歩く二人は、薄汚れた三階建てのビルに入って行った。
 見て来た中で、シャッターが開いていたのはこのビルだけだった。
「何処ですか? ここ」
「探偵事務所所有のオフィスビル」
「探偵、ですか」
「表向きは探偵事務所だけどな。表で頼めないような依頼がくる、いわゆる万屋だ。裏の世界じゃ有名で、俺たちの情報収拾源の一つだ」
 ヤンはそう説明しながら、階段で三階にあがる。
 扉をノックすると、返事がある代わりに扉が開いた。
「あれ? 今日はイチなのか」
 扉を開けたのはイチと呼ばれる少年だった。確かケイの同居人だ。
 イチの目がヒデに止まる。すると、持っていたクロッキー帳の様な紙束に何か書き始めた。
[ヒデ?]
 喋れない、のだろうか。
「はい。ヒデです。よろしくお願いします」
 イチの口元はすっぽりとマスクの様なもので覆われている。少し怖かった。
「突然で悪かったな、間に合ったか?」
 イチはまた頷きながら紙を見せた。
[二階]
「ヒデ、持って来い」
「はい!」
 ヒデは既死軍で一番下っ端だ。それは自分でもよく分かっている。だから雑用係扱いも仕方なかった。
 二階の扉を開けると、少し大きめの段ボールが一個、ぽつんと置かれていた。それを三階に持って上がる。大きさの割りには軽い。
「何ですか? これ」
「遺品を渡すのは誰だと思う?」
「……帝国軍?」
「ご名答」
 段ボールから出てきたのは、見慣れた帝国軍治安維持部隊の制服だった。
「俺とノアが治持隊、ヒデは……」
 ヤンが引っ張り出したのは、秀が通っていた高校の制服だった。
 だが、どう見ても女子の制服だ。ご丁寧にカツラまである。
「女装、か」
「い、嫌だ!」
 ヒデは思いっきり首を横に振った。
「母親に会いたいんだろ?」
 またも、ヤンが意地悪く笑う。
「それはそうですけど!」
「でも今から行くのヒデの地元だし、顔バレちゃうとマズいでしょ? 仮にも死人なんだから」
「だからって女装なんて!」
「変装の基本だろ。大丈夫、イチが綺麗にしてくれるから」
「綺麗とかいう問題じゃなくって!」
「僕もした事あるし」
「俺も」
「あとキョウもしたよね。あれは可愛かったなぁ〜」
 確かにこの二人は女装しても似合うかもしれない。
 既死軍は何でもするのか。溜め息が出る。
「良いかヒデ、生きる為だと思え!」
 ヒデの肩を持って、力強くヤンが言う。生きるというのは本当に大変な事だ。
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