Blackish Dance
□#0008
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矢の様に過ぎて行った毎日は、新しい事ばかりだった。
洗濯は川で、飲料水は井戸から、食べ物は畑,もしくは貯蔵庫から、お風呂は薪をくべて…。辛うじてトイレは水洗だったが。
ヒデは「自分の事は自分で」と言う言葉を身を持って感じた。
母親と暮らしていた時も自分で家事はしていたが、文明の利器は使っていた。
風景と同じ様に、暮らしもまるで時代に取り残された様だった。
ヒデにとってテレビでしか見た事のなかった生活は新鮮でもあり不便でもあったが、嬉しい事もあった。
畑当番のお陰で全員と知り合えた。宿家親(おや)はまだ数人分からなかったが。
そして村の生活にも慣れてきたある日の朝早く、ケイがやってきてアレンに1枚の紙を渡したのを見た。
ケイは既死軍の情報すべてを統括している人だ。任務は彼から命じられる。
そしてこの村には彼が作る“予定表”と言う物が存在した。
個人別に書かれているので、基本的に子供は予定表に従って行動しているらしい。
十日に一度届けてくれる墨で書かれたそれは、あまりにも大雑把だった。
今日からヒデにも渡される予定表を見せてもらった。
「今までヒデ君は特別日程でしたからね。これからは少しずつみんなに近付けていきましょう」
「はい。えっと……」
紙には演習、畑、会議と三つの単語が数ヵ所に書かれているだけだった。シンプルだが分かりにくい。
「この演習と会議って何ですか?」
「演習は、平たく言えば訓練ですね。体力作りから本格的なものまでやります。会議はあまり開かれませんが、子供全員が集まります。ケイから既死軍、政府の近況報告、または任務の説明など、回によって様々です」
「分かりました。それで、今日に演習入ってますけど。どうしたら良いですか?」
「大体の演習は射撃場で行われます。まだ早いですが行きましょう」
段々、自分が仲間入りしている気がして、足取りは軽かった。転校生気分はほとんど無くなっていた。自分でもつくづく順応性が高いと思った。
――じゃないと生きていけなかったから――
ヒデの足が止まった。
「どうしました?」
後ろを歩いていたアレンが不思議そうに尋ねた。
「いえ、何でもありません」
ヒデは再び歩き出した。
過去は振り返らないと決めた新しい人生を。