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□出逢い
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夜、雲一つない漆黒の空に半分に欠けた月が浮かんでいる。
そんな空を見上げながら、レミリア・スカーレットは小さく溜息を吐いた。
彼女は夜の住人、吸血鬼だ。


「どうしました?お嬢様」


溜息をつく彼女を、十六夜咲夜が不思議そうに見ていた。


「なんでもないわ」


外から視線を外さずそれだけ言って、咲夜が淹れてくれた血の入った紅茶を飲み干す。

いつもと何も変わらない夜。
ただ、一つだけ違うのは、体の火照り。


「咲夜、少し一人で出かけてくるわ」


窓を開けながら告げて、レミリアは夜の闇の中へと溶ける。
咲夜が何か叫んでいたが、よく聞こえない。


少しだけ冷たい風が火照った躯に気持ち良く届く。
たまに、こんな時があった。
吸血鬼という存在である以上、血を欲してしまう。
別に、紅魔館には『食料』はあるから血に困る事はない。
咲夜が血を紅茶に入れたりして出してくれる。だが、時々、本当に時々だが、それだけでは足りない時がある。
生きている人間の血を吸いたくなってしまう時が。
あの温かく、甘美な命の味を欲してしまう時が。
幻想郷に居る人は少ない。
レミリアの側に一人居るが、彼女…十六夜咲夜の血を吸う訳にもいかない。
他の人間も博麗霊夢や霧雨魔理沙など人間離れした力の持ち主だ。
つまり、幻想郷に居る限りは今の衝動を我慢するしかないのだ。
満たされない渇きが心を粟立たせる。
満たされない欲望が躯を熱くさせる。

大きく溜息を吐いてから首を巡らせると、湖が見えた。
それを見てレミリアは湖の近くの草原に降り立つ。
別に湖に興味があった訳ではない。ただ、なんとなくだ。

照らす物は月光のみ。だが、それ故に日の光の下にあるのとはまた違う、幻想的な雰囲気が醸し出されていた。


「こういうのは嫌いじゃないわね…」


一人ごちてレミリアは草の上に腰を降ろす。
吹き抜ける風がほんの少しだけ躯の熱を冷ましてくれる。
自然と、口元が綻ぶ。
と、その時だった。


「ちょっと!そこのアンタ!ここはあたいの縄張りだよ!」


ハスキーな声が辺りに響き、レミリアの前に少女が舞い降りてきた。
青い髪の、背に水晶の結晶のような六枚の羽を背負った少女だった。
レミリアはその少女をじっと眺める。
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