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□さがしているもの
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「ナズ〜?ナズーリン〜?」
ぽかぽかとした陽気の午後、私が気持ち良く縁側で日向ぼっこをしているとご主人…寅丸星の私を呼ぶ間延びした声が聞こえてくる。
まったく、あのお方はもう少し威厳を持つという事をしないのだろうか。毘沙門天様の弟子だと言うのに…。
「ナズ〜?」
「はいはい、そんな間の抜けた大きい声を出さなくても聞こえていますよ」
ふぅ、と小さな溜息を吐いて立ち上がれば気乗りしないまま声のした方向へと足を動かす。
どうせまた下らない探し物だろうな…。
大体ご主人は物を失くし過ぎだろう。前はお気に入りの湯呑み、その前は櫛。
しかも失くす度に私に泣きついてくる。
私の能力はご主人の失せ物探しの為にある訳じゃないんだけど…。
『わぁ、ありがとうございます!ナズーリン!』
……っ!
ふと、以前に失せ物を見つけた時のご主人の笑顔が、頭の中によぎる。
あの人懐っこい、幼子のような笑顔。
私を見つめる瞳は真っ直ぐで、明るく輝いていた。
あのご主人の笑顔を見る度に、私はいつも幸せになれた。
そして…その笑顔を見る度に、私は…。
「……何を考えているんだか」
呟いて、ブンブンと頭を振る。ご主人には聖様というお方がいる。私はご主人の従者だから、ご主人の役に立てる事が嬉しいだけなんだ。
そう、それだけなんだ…。
だから…
だから、この胸の痛みもきっと気のせいなんだ。
「ナズ〜、どこですか〜?」
「……此処ですよ、ご主人。今そっちに行きます」
取り敢えず、今は頼りないご主人を支える従者でいよう。私はそう言い聞かせて姿の見えないご主人の元へと歩を進めるのだった。