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□願い
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春の白玉楼、暖かな風が吹き、その庭には一面の桜がその身を誇るかの如く咲き並んでいた。

私は、その桜の木に囲まれながら、周りを意識しながらも集中の糸を切らさないように注意し、僅かに両足を開き、左手で楼観剣の鯉口を切りながら右手をゆっくりと柄に添える。


「はぁ!」


気合いと共に刀を抜くと目の前を散る桜の花弁に狙いを定めて斬り上げる。

……が、桜の花弁は刀が起こす風に煽られてその身を刀の軌道から逸らすとひらひらと地面へと落ちていった。


「……はぁ」


その様を見届けてから楼観剣を鞘へと収めて大きな溜息をつくと、私は桜の木の根元に腰を降ろし、両の手で膝を抱えると舞い散る桜を物憂げに見つめる。

……私はまだまだ未熟者だなぁ。

腰に差してある楼観剣と白楼剣に左手で触れながら、私はもう一度大きな溜息をついた。

こんな有り様じゃあ幽々子様のお役に立つ事なんて出来る訳がない…。

あの春を集めた時も、異常な月の時も、結局幽々子様にご迷惑をかけてしまった。
本来ならば、西行寺家に仕える私が全て処理しなければならない事だったのに、私が未熟なせいで主人に危険が及んだのだ。


「強くなりたい…幽々子様にご迷惑がかからないくらいに…」


泣きたくなってくるのを我慢しながら立ち上がると、私はまた、刀を手に取り修行に励むのだった。
白刃がひぅんと舞う度にまるで私の迷いを裂くかのように心が落ち着いていく。
その感覚が心地よくて、私は刻を忘れて刃を振るい続けた。


「……」


「……」


私を見つめる2つの影には、気付かないまま…。
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