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□Night darkness and insane rouge
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まるで夜のような少女だ。それが、『彼女』に抱いた最初の感想だった。
夜の闇のような黒い服に、キラキラと輝く月のような金髪。
「フランドール…素敵な名前」
狂おしい程に鮮やかに、儚げに輝く月を背に負った『彼女』は、その月の光にも似た笑みを浮かべてそう、呟いた。
その言葉が、下で行われているパーティの喧騒よりも、或いは今まで聴いてきたどんな音よりも、私の心の奥底に、届いていた…。
時間は少し遡る。
暗い地下室に篭っていた私は外の騒がしさに少し不快感を覚えながらメイドが出してくれた紅茶を飲んでいた。
「何をしているんだか」
今日は夜にパーティだから色々用意しないといけない、と確か咲夜が言っていたような気がする。
またお姉様の思いつき…か。
嘆息交じりの息をついてもう一口、紅茶を啜る。
『フラン貴女…レミィの事を恨んでる?』
ふと、パチュリーの言ったことを思い出した。
495年も地下室に閉じ込められ、私はこの紅魔館の中しか世界を知らない。その事を恨んではいない?
いつもの少し眠そうな顔で、あの魔法使いは私に問い掛けた。
お姉様…レミリア・スカーレットは我侭で自己中心的だが…聡明だ。少なくとも、私なんかよりは。
私を此処に閉じ込めているのも何かしらの理由があっての事なんだろう。そう思っている。
だけど正直に言えば、どうでもいいのだ。そんな事は。
確かに、殺したいと思う程に恨んだ事もあった。
だけど、もう、慣れた。
この静かで暗い部屋も、独りで居ることも。
だからどうでもいい。
「とは言っても…」
やっぱり、暇…。
娯楽と呼べるものなど皆無な地下室では、ただただ暇を持て余すしかなかった。
以前この地下室まで来た霊夢と魔理沙と弾幕ごっこをした時は楽しかったなぁ…。
やはり、多少なりとも刺激が必要という事なのだろう。
今度お姉様にでも相手してくれるように頼んでみようかな。
「今日は無理だろうし…」
確か、パーティは外でやるって言ってたから…つまり今は晴れているという事だ。
「たまには月でも眺めてこようかな」
そう呟いて立ち上がると、メイド妖精が少し慌てた様子で私の傍へと近寄ってきた。
「大丈夫よ。館の外には出ないから」
苦笑交じりにそう言うと、紅茶の片づけをそのメイド妖精に頼んで私は地下室の扉の前に立つ。
そして背中越しに一度だけ自分の住む暗い暗い部屋を見てから、扉を開けた。