幻想記

□萃う、夢を、想う
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夜の空を通り抜ける風に若干の冷気が混じり秋が到来してきた事を告げていた。

(そろそろ暖かい服も用意しておかないといけないかねぇ)

上空でその風に身を委ねながらゼルはふと、そんな事を考えた。
夜闇に溶けるような黒いハットに黒いYシャツを着た彼女は、月を背負ってでもいない限り恐らく一目ではわからないだろう。

今日の配達は終わり、後は帰って夕食を食べて眠るだけ。
明日もまた配達があるのだから早目に寝よう。
そう思い、ゼルは人里へと帰る。

上を仰ぐと、気が狂いそうなくらい綺麗な満月がゼルを照らしていた。

















(今日のご飯は何にしようかな)

人里の道を歩きながらしばらく考えたがあまりいい案は浮かばなかった。

(カップ麺でいいかな。買い置きはたくさんあるし)

以前紫に頼んで外の世界に出た時に色々と買ってきた物がある。
今日はそれで済ませてしまおう。そう思った。

「ん?」

ふと見ると、自宅の前に誰か居る。と言うか玄関に寄りかかり座り込んでいる。
その影の前に立ち、小さく溜め息を吐いてからゼルが口を開く。

「…萃香ちゃん。人の家の前で何してるさ」

「あ、やっと帰ってきた」

そう言って伊吹萃香は笑顔を見せた。
どうやらもう既に酔っているようだ。

「今夜はいい月だからゼルと飲もうと思ったらゼル居ないんだもん」

「そりゃ配達行ってたから…」

「頑張るねー」

「楽しんでるだけさね。とりあえず中入ろ?」

そう言うと萃香はゆっくりと玄関の前から退きゼルは持っていた鍵で玄関を開けた。

「どーぞお上がり下さいなー」

「はーいお邪魔しまーす」

萃香と共に中へ入るとゼルはテーブルに置いてあるランプに灯をともした。
ぼんやりとした灯りが部屋を照らし、ゼルと萃香は椅子に座った。

「飲む?」

そう言いながら萃香は持った瓢箪をゼルに差し出す。

「空きっ腹にお酒はキツいさー」

と言うよりそもそもゼルは極度の下戸である。
日本酒など呑んだらまず間違いなく吐く。それを分かっているからこそゼルは酒を呑まない。

「つまんないの」

そう言って萃香は一口酒を煽った。

「まぁ私用の弱いお酒もあるしそれで良ければ付き合うよ」
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